日経QUICKニュース(NQN)=編集委員 今晶
インターネット上の代表的な暗号資産(仮想通貨)ビットコインの価格が日本時間で土曜日の26日午前に急伸し、ドル建ては久しぶりに1万ドルの大台に乗せた。上昇前は7400ドル前後だったが、一時は4割程度高くなった。量子コンピューターへの懸念などから空売りの持ち高が積み上がり調達コストが悪化していたところに、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が仮想通貨の基幹技術であるブロックチェーン推進に前向きな考えを示したと伝わった。これが損失覚悟の買い戻しに拍車をかけた。
■円建てビットコインも一時100万円の大台に
中国国営の新華社通信が伝えたのは「ブロックチェーン技術の統合的応用が新たな技術革新と産業変革において重要な役割を果たしている。われわれはブロックチェーンをコア技術の自主革新の重要な突破口とし、鍵となるコア技術の攻略に力を入れ、ブロックチェーン技術と産業の革新と発展を加速させなければならない」という習主席の発言だ。ビットコインのビの字も登場していない。平時なら「投機色の強いビットコインなどの規制方針は揺るがない」と受け止められただろう。だが、今回は違った。
ビットコインの買いを主導したとみられるのは香港を拠点にする大手交換所だ。差し入れたコインを元手に運用額を拡大する「レバレッジ」の仕組みを導入し、コインのショート(空売り)も機動的にできる。ショートの持ち高形成時には受け取った米ドルなどを元手にコインを調達する。仮想通貨には中央銀行も政策金利も存在しないため、ここで生じる借り入れコストは需給の偏り具合によってかなりダイナミックに変わることになる。
もしコインのショートが急拡大していたらコインの調達ニーズが運用を大きく上回り、金利相当のコストは膨らむ。空売りをすればするほど負担は増す。習氏の発言が流れたのは、空売り投資家の我慢が限界に近づいたタイミングだった。レバレッジ取引におけるコインの買い戻しはオプションに絡む買いに波及し、1万ドル台回復を演出した。
英ロンドンで仮想通貨の運用を手掛けるゼニファス・キャピタルの鈴木涼介氏は「米ドルとビットコインの間での資金のやり取りは米国債などを担保にお金を貸し借りするレポに似ている」と指摘する。ただレポには自由に取引可能な厚い市場があり、金利が上がれば米連邦準備理事会(FRB)などが積極的な資金供給で応じてくれる。中銀不在で発行数が限られる仮想通貨との違いは大きい。
26日までのビットコインの急反発は、仮想通貨取引における空売り戦略の難しさを示した。半面、各国当局の規制強化のスタンスが和らぐ可能性は低く、価格上昇が投資家の新規参入を促す好循環につながるとは現時点では想定しづらい。ゼニファスの鈴木氏も「結局は買い戻しの域を出ず、ここからの上値余地は限定的」と話す。日本時間28日7時30分時点の相場は9700ドル前後で推移している。
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