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金高シナリオ揺るがず ブルース池水氏「トランプリスクなど支援材料多い」

日経QUICKニュース(NQN)=藤田心

著名な貴金属ディーラーだった池水雄一氏が社団法人「日本貴金属マーケット協会(JBMA)」代表理事として商品先物の情報配信を積極化している。池水氏は金やパラジウム、白金などに強気のスタンスを維持してきたことで知られるが、現在、金やパラジウムが歴史的な高値圏にあっても楽観を崩していない。今後の商品相場の見通しについて聞いた。

いけみず・ゆういち 1986年上智大卒、住友商事入社。90年クレディ・スイス銀行、92年から三井物産で貴金属チームリーダーを務める。2006年に南アフリカのスタンダードバンク(現ICBCスタンダードバンク)東京支店副支店長に転じ、09年から支店長。8月31日付で同社を退社し、この秋からJBMAで代表理事兼貴金属スペシャリストに就任し、個人を中心に投資家向けの情報配信や啓発活動に軸足

──ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物は中心限月の12月物が1トロイオンス1500ドル前後と、6年ぶりの高値水準です。国内の先物も中心限月の期先物が1グラム5200円を超えるなど、史上最高値圏で推移しています。

「基本的には上昇基調を保つとみている。NY金先物は1500ドル前後でひとまず上値の重さが意識されているが、これはトランプ米大統領の来年の選挙を見据えた施策や発言に株式市場が反応し、リスク回避のムードが後退しているためだろう。ただ、トランプ氏の発言内容には実現可能性で疑問符が付く。トランプ氏が何をするか分からないという、存在自体が金の買い材料になる面は今も変わらない」

「金の買い持ち高は既にだいぶ積み上がっており、利益確定の売りのエネルギーは相応にたまっている。だが、このところの米経済指標を見ると米景気の先行きはかなり危うい。米連邦準備理事会(FRB)は利下げの選択肢を維持すると考えられ、中期的な金の支援材料になりそうだ」

――長期の視点ではいかがでしょうか。

「強気だ。第2次世界大戦から70年以上たち、資本主義を軸とする世界の枠組みに綻びが出始めたと感じる。『アメリカ・ファースト』のトランプ米大統領の誕生は象徴的だ。英国の欧州連合(EU)離脱問題もしかり。何かにつけて不透明な状況は安全資産としての金の需要を促すだろう」

「各国の中央銀行による買いも増えた。昨年には過去最高を記録し、今年の購入量はそれ以上のペースとなっている。この傾向が続くうちは金高シナリオは揺るがない。NY金先物は年末から来年の前半早いうちに1600ドルに向かうと予想している」

パラジウムも需給逼迫、どこまで上がるか見通せず

──パラジウムも高いですね。NY先物中心限月では最高値圏の1トロイオンス1800ドル前後の水準になっています。

「パラジウムの需給は自動車の触媒向けなどの実需主導で逼迫している。主産地の南アフリカ共和国では白金、ロシアではニッケルの副産物のため、パラジウム単体では供給を増やせない。実際、ここ10年近く供給量はほぼ変わっていない。一方、ガソリン車の触媒需要は増加傾向だ。5年前の相場水準は白金の2分の1だったが、今では逆転し、パラジウムのほうが2倍近く高い。どこまで上がるか分からないというのが正直なところだ」

「自動車が全く売れなくなったり、ガソリン車が電気自動車(EV)に置き換わったりすると相場は下がり得るのだが、自動車販売が急激に細ることはないだろう。EVもすぐには浸透しない。需給のギャップはまだ大きい」

ディーゼル車向け触媒、いまは低調だが……

──金やパラジウムに比べると、白金相場は低調です。NY先物中心限月は1トロイオンス900ドル前後にとどまっています。

「ここ2年で金やパラジウムは勝ち組、銀と白金が負け組といわれてきた。白金を取り巻く環境は良くない。工業用途ではディーゼル車の触媒として使われるが、独フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題以降、ディーゼル車は苦戦続きだ」

「最大市場の欧州では小型車もガソリン車に移ってしまった。供給の8割近くを占める南アフリカで通貨ランドが低迷し、ランド建ての白金が高値圏にあることも上値を抑えた」

「900ドルを割り込むと底堅さを示す傾向が強い。金よりも割安と判断した投資家の一部が分散運用を目的に資金を移しているのではないか。金相場が1600ドルを目指す過程で、白金も1000ドルを試す展開があるのではないかと想定している」

日本人投資家の「言語の壁」を取り払う 

──JBMA設立の狙いを教えて下さい。

「貴金属マーケットに関する情報が個人投資家にうまく伝わっていないと感じていた。貴金属相場は40年来の高値水準にあり、個人の関心は大きいはずだが、知るべき情報は多岐にわたる。どこを見て、何をすればいいのか分からないと言われることが多い」

「一口に金への投資といっても現物や先物、上場投資信託(ETF)など多様だ。金なら金で市場全体をカバーできる情報を提供し、個人の理解を深める助けとなりたい」

「商品関連の情報には『言語の壁』が厚い。リポートは英語で書かれていることがほとんど。特にパラジウムや白金の情報は国内では極めて少ない。現在、海外の機関と情報提供で調整をしており、今年度中に貴金属マーケットに関する情報提供のサイトを立ち上げたい」

「最終的には現地情報を含めた貴金属全般の情報を網羅できるサイトに育てようと思っている。並行して講演会やシンポジウムを開き、啓発活動に取り組む予定だ」

参考記事:(8/23配信)歴戦の貴金属ディーラーが選んだ次の舞台 ブルース池水氏「個人向け啓発に軸足」、(4/22配信)平成・危機の目撃者⓫ 池水雄一が見た「有事の金」の復権(1999)

※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。


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