QUICK資産運用研究所=高瀬浩
確定拠出年金(DC)で運用する投資信託の存在感が増してきた。国内公募の投信市場では、9月の資金流出入額ランキング(ETFを除く追加型株式投信)上位にDC専用投信がずらりと並ぶ「異変」が起きた。大手企業による確定給付年金(DB)からDCへの制度移管が背景にあるとされる。各社の取り組みや運用商品の品ぞろえなども変わりつつある。
■アクティブ型投信、ソニーは新規追加・日立は除外
NPO法人の確定拠出年金教育協会が10月18日に開いた「日本DCフォーラム」のパネルディスカッションでは、ソニー(6758)と日立製作所(6501)の年金運営担当者がそれぞれ自社の現状や運用商品ラインアップの考え方などを披露。市場平均を上回る運用を狙う「アクティブ型」投信の取り扱いを巡る両社の違いが浮き彫りになった。
ソニーは「年金制度を長期にわたり継続可能にする」という理念に基づき、現役社員の年金制度をDC制度に完全移行した。これを機に、指数との連動を目指す「インデックス型」に限定していた投信のラインアップに、アクティブ型を新たに加えた。登壇した同社執行役員の村上敦子氏は「ハイリスク・ハイリターン志向の社員は、アクティブ型も選択できるように品ぞろえの幅を広げた」と説明した。
逆に日立はバランス型を含めて、インデックス型投信に絞り込んだ。今年4月に運用商品数を9本に半減した際、アクティブ型をすべて除外。グループ社員の金融リテラシーは必ずしも高くないという判断が背景にある。一方、人財統括本部人事勤労本部エンプロイーライフサポート部部長兼雇用・処遇改革プロジェクトリーダの小林由紀子氏は、若手社員の「元本確保型商品」離れが進んでいることを紹介。20代社員のうち、投信のみで運用している割合が6割近いという。
■19年度の表彰対象は7社、ギャバンはリスク志向社員が倍増
毎年開いているDCフォーラムは今回で8回目。一般事業会社のDC運営担当者を中心に200人あまりが参加した。制度運営に熱心な企業を選定して「DCエクセレントカンパニー(運営優良企業)」として表彰するのが恒例となっている。
2019年度のDCエクセレントカンパニーはアズビル(6845)、沖電気工業(6703)、ギャバン、ホクリン、日新電機(6641)、鶴見製作所(6351)、和井田製作所(6158)の7社が受賞。フォーラムでは東京に本社を置く4社が登壇し、継続投資教育などの取り組みを紹介した。
一例を挙げると、ハウス食品グループ本社(2810)傘下で香辛料大手のギャバンは、運用商品が17本で、このうち元本確保型商品が3本、アクティブ型投信が6本、インデックス型が8本というラインアップをとっている。12年から社内でDC勉強会を始めた結果、リスクをとった運用を志向する社員の比率が32%から64%に高まり、元本確保型商品の残高は71%から53%に低下したという。
■継続投資教育「努力義務」化、運用商品に変化も
事業会社でDC運営を担当している参加者は「エクセレントカンパニー代表者の説明にあった『社員の老後の幸せも考えて運営』という言葉には思わずハッとさせられた。独自の冊子作成、毎月のメルマガ発信など『関心を持ち続けてもらう』ための継続投資教育の工夫には学ぶ点が多い」と話していた。
18年5月施行の改正確定拠出年金法では、企業による継続投資教育が「配慮義務」から「努力義務」に格上げされた。継続的な教育なしでは、社員が老後への備えについて十分考えずに運用商品を選んだままにしてしまいかねない。社員の意識が高まるにつれて、求められるDC運用商品も変わってきそうだ。
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