日経QUICKニュース(NQN)=菊池亜矢
日銀は30~31日に開いた金融政策決定会合で政策の先行き指針である「フォワードガイダンス」を変更し、将来的な利下げの方向性を追加した。米国の利下げなどを横目に、いつでも追加緩和できるというファイティングポーズだけは示した格好だ。だが、金融・資本市場では日銀の姿勢が追加緩和に傾いたとの受け止めは限られている。
フォワードガイダンスにおける政策金利については、2%という物価安定の目標に向け「現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定」とした。従来は「当分の間、少なくとも2020年春頃まで、現在の低い長短金利の水準を維持する」という表現だった。今回は、想定する金利は現在を下回ることもあり得ると示した。
「ノーアクション」回避で期待つなぎとめ
低金利を想定する期間については「(物価上昇の)モメンタム(勢い)が損なわれるおそれに注意が必要な間」とした。従来のような明確な時期は示さず、物価のモメンタムの評価と低金利を続ける期間をひもづけた。
同時に公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、消費者物価指数(生鮮食品を除く)の上昇率について政策委員見通しの中央値は20年度が前年比1.1%上昇、21年度が1.5%上昇となった。7月時点の1.3%、1.6%からどちらの年度も下方修正となり2%に届かない見通しだ。
日銀は9月の会合で、今回「経済・物価を改めて点検」と強調し、結果としてマーケットの追加緩和期待をつなぎとめた形だった。その手前、指針も含めた政策運営がすべて前回から変更なしというのを避けたといえる。
だが、マーケットは近い将来に追加緩和があると受け止めたわけではなさそうだ。BNPパリバ証券の河野龍太郎氏は「大幅な円高にでもならない限り、日銀が利下げに踏み切る可能性は低い」とみる。同氏は、今回の会合で追加緩和を決めるほどの経済情勢ではなかったとしたうえで、指針の変更は「緩和に消極的との印象を何としても避け、緩和期待をさらにつなぎとめるため」と読む。
日銀の決定直前の30日、米連邦準備理事会(FRB)は追加利下げに動くと同時に予防的な利下げの休止を匂わせた。30日からきょうにかけての株価や為替相場は落ち着いている。米中貿易交渉は進展の期待があり、英国では合意なき欧州連合(EU)離脱の可能性が低下しており、マーケットを取り巻く市場環境は好転しつつある。
緩和カード「切らない」?「切れない」?
日銀が追加緩和に動くとすると、その場合の有力手段の1つはマイナス金利の深掘りだ。だが、金融機関の収益悪化を通じてむしろ株安・円高を招くなど副作用への懸念は強い。
簡単に切れない緩和カードを温存させつつ、緩和期待は保つという姿勢が透ける日銀に対しては「海外などの投資家とのコミュニケーションのぎくしゃく感が残るかもしれない」(東短リサーチの加藤出氏)との声があった。今回も「ちゅうちょなく追加緩和」との表現を残したが、加藤氏は「本当にちゅうちょなくできるかどうかの疑念を抱かせかねない」と指摘する。
今後の政策見通しを巡り、BNPパリバの河野氏は「米国のこれまでの金融緩和のおかげで世界経済は持ち直すとみており、日銀は追加緩和を避けられる」と予想する。だが、日銀に緩和カードの温存を許した世界経済の底入れ期待やそれに伴うマーケットの落ち着きが、この先も続くとは限らない。
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