QUICK資産運用研究所=高瀬浩
ブログなどで自身の投資信託(ファンド)の運用やその考え方などを発信するブロガーとの交流を進める運用会社が増えている。投信ブロガーの発信力を活用し、自社の運用の理念や商品などを個人に幅広く浸透させるためだ。インデックス運用の巨人と呼ばれる米バンガードの日本法人バンガード・インベストメンツ・ジャパンは1日、都内で3回目となるブロガー交流会を開いた。
■低コストの理由は会社構造と資産規模
なぜバンガードは低コストのETF(上場投信)を提供できるのか--。15人ほどの投信ブロガーらが参加した今回の交流会では、ファンドの経費率(純資産総額に対する運用経費の比率)を引き下げ続けるバンガードのコスト構造がテーマのひとつとなった。
低コストを実現できる理由のひとつは、バンガードの会社構造にある。通常の運用会社は株主が所有しているが、同社は同社が運用するファンドが所有する形態となっており、「外部の株主が存在しない」(マーケティング・コミュニケーション本部長のレイチェル・ジャン氏)。
だから株主に利益を配分する必要がなく、その分を経費引き下げの原資にすることができる。この仕組みは、今年1月に逝去したバンガード創業者であるジョン・C・ボーグル氏が実際の運用を始めた1975年に取り入れたという。
もうひとつは運用資産規模だ。「2019年8月末時点の運用資産は、個人向けでは世界最大規模の総額5.6兆ドル(約600兆円)あり、運用経費率は平均で0.1%(18年末時点)と業界最低水準」(レイチェル・ジャン氏)なので、年間の運用収益は単純計算でも6000億円に及ぶ。
■実質信託報酬0.1%割れファンドが登場
公募投信市場では、バンガードのETFを組み入れることで、実質的な信託報酬(運用管理費用)を抑えたファンドが相次いで登場。SBIアセットマネジメントが9月26日に運用を始めた「SBI・バンガード・S&P500インデックス・ファンド」(T89311199/TSK)は、実質信託報酬(税込み)が0.1%を下回る。同ファンドの新規設定を記念した10月31日の個人投資家向けセミナーで、同社の梅本賢一社長は、運用資産規模の増え方を考慮に入れるとしながらも、信託報酬のさらなる引き下げに含みを持たせた。
楽天投信投資顧問は2017年9月にバンガードのETFに投資するファンドを初めて設定し、現在は8本を運用している。「楽天・バンガード・ファンド」と呼ばれるシリーズは、6日にシリーズ全体の純資産総額が1000億円を突破。投信ブロガーの投票によって決める「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2018」の10位以内に2本が入るなど評価されている。
■「バンガード」を名乗るには高いハードル
国内公募ファンドで、「バンガード」の名前(愛称を含む)が入ったファンドは現在11本。「バンガード」が付くファンドを設定する際は「高いハードルを設けている」(ETF戦略部長の渡邊雅史氏)。同社が掲げる「すべての投資家と公平に向き合い、投資目標のための最良の機会を提供」という使命や、コストの最小化などの投資哲学に集約された顧客本位の考え方を共有できることが条件という。
一方、バンガードのETFを組み入れたファンドは、運用会社が直接運用するインデックス型ファンドと比べて指数との連動性が劣るとの指摘が出ている。バンガードのETFが指数との高い連動性を保っても、それをファンドに組み入れる過程で乖離(かいり)が生じる可能性があるという。バンガードも「のれん分け」している以上、社訓の「Stay the Course(航路を守れ)」を継承していくうえで、投資家を納得させるデータの開示や丁寧な説明が重要になってきそうだ。