NQN香港=桶本典子
中国電子商取引(EC)最大手アリババ集団の香港株式市場への新規上場が26日に迫った。中国の情報技術(IT)2強としてよく比較されるネットサービスの騰訊控股(テンセント)は既に香港に上場済みで、「香港場所」に中国ネットインフラの横綱がそろい踏みする。ネットインフラ2強が同一市場で取引されることは、国際的な市場間競争を刺激する可能性がある。
アリババが20日に決めた公募価格は176香港ドル。5億株の新株を公開し、追加発行分を含め1012億香港ドル(約129億米ドル、約1兆4000億円)を市場から吸収する。アリババの時価総額は21日終値時点で4754億米ドル(約3兆7100億香港ドル)と、香港ハンセン指数採用銘柄で時価総額3兆香港ドル超え銘柄であるテンセント(3兆1400億香港ドル)と肩を並べる。
アリババとテンセントは中国ITインフラ市場を2分する巨人として、これまでもなにかと比較されてきた。両社ともにクラウドやデータといったハイテク事業をはじめ情報や金融、物流、消費、娯楽事業まで幅広く展開し、偶然にも創業者の姓も同じ「馬(マー)」。顧客を取り合って激しく競争することもあれば、同じ企業に出資することもあった。
今後は、そんな2社のさや当てが株式市場でもみられることになる。香港メディアでは「テンセントを売ってアリババを買うのが良い?」(17日付の香港01電子版)と、投資家向けの比較記事が多く見られる。実際、アリババが一般投資家からの購入予約を受け付けていた15~20日に、テンセントの売買代金はそれまでよりも一段と増加した。期間中にテンセントへの注目度が上がった可能性がある。
株価動向や業績面での両社の明暗も、「テンセント売り・アリババ買い」の思惑を誘うようだ。テンセント株が年初から21日まで5%程度の上昇にとどまるのに対し、アリババの米預託証券(ADR)は3割超上げてきた。7~9月決算では、純利益が3四半期ぶりの減益となったテンセントに対し、アリババの営業利益は前年同期の1.5倍に増えた。
ただ、アリババに不利な材料もある。香港市場でハンセン指数を算出する恒生指数社の幹部が20日、「種類株銘柄であるアリババは現時点ではハンセン指数の構成銘柄に適さない」と発言したと伝わった。構成銘柄を軸にポートフォリオを組む機関投資家から採用されにくくなる恐れがあり、既に構成銘柄入りしているテンセントに比べ分が悪い。中国本土市場との証券相互取引の対象になるのも、規定により上場後一定の期間が必要だ。
「主力事業がアリババはEC、テンセントはゲームと異なるうえ、アリババは種類株銘柄に区分けできるので通常の銘柄であるテンセントと区別できる。両銘柄ともに保有して問題ない」(民衆証券の郭思治・董事総経理)との声もある。アリババ上場で香港の投資家にとって株式市場の魅力が高まるのは間違いない。
アリババ上場を機に香港市場の存在感は増しそうだ。世界取引所連盟(WFE)がまとめた主要取引所の株式時価総額ランキングによると、9月末時点で東京は3位(619兆円)、香港は6位(415兆円)だ。50兆円規模のアリババを仮に香港に合算しても、東京市場を脅かすには至らない。ただ時価総額上位銘柄の顔ぶれを見れば、香港は金融や通信の大手のほか、世界の時流に乗ったIT大手が名を連ねる形となる。国際的な市場間競争の号砲が静かに鳴ったともいえる。
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