QUICKコメントチーム=川口究
ESG投資の路線をひた走る海外の機関投資家たち。英シュローダーは運用資産63兆円のすべてをESG投資に転換すると表明し、仏アムンディは2021年に運用資産190兆円のすべてにESGを統合することを目指すことを打ち出した。彼らはESGの様々な側面に着目し、新たな投資分析や運用手法の開発に励んでいる。
その基本となるのが、様々な国際機関などが提唱する「行動規範」で、中心軸にあるのがグローバル・コンパクト(GC)。国連が企業・団体に提唱している「人権」・「労働」・「環境」・「腐敗防止」の4分野・10原則を軸に持続可能な成長を実現するための枠組みだ。ESGスコアを算出するアラベスク社では「GCスコア」も合わせて算出している。日本企業でGCスコアの高い上位10社にはAGC(5201)や積水化学工業(4204)などが並ぶ。
一方で最近になって「不名誉」な格付けをくらった日本企業もある。11月15日、機関投資家と人権NGO(非政府組織)が設立した国際的な組織であるCHRB(Coporate Human Rights Benchmark:企業人権ベンチマーク)は「人権格付け」を公表。対象となった日本企業18社のうちファーストリテイリング(9983)を除く17社が下位30%に位置し相対的に「人権意識が低い企業」のレッテルを貼られてしまったのだ。
高GCスコアの10社(グラフ黄色)と人権格付けの下位銘柄(グラフ青)をそれぞれバスケット化した株価の推移をみてみよう。
興味深いのはROEの違いだ。株価パフォーマンスが良好な高GCスコアのROE平均は10%。これに対し人権格付けの下位銘柄の平均は11%と高GCより高い。「人権意識が低い」とされた企業ほど相対的にROEが高いという皮肉な構図が浮き彫りになる。まさに資本原理主義の問題を浮かび上がらせる現象といえそうだ。ただ、今年に入ってからのパフォーマンスに限れば「低人権バスケット」の実質的にはパフォーマンスが良好だ。
11日に開催されたイオン(8267)のサステナブル経営説明会。環境・社会貢献・PR・IR担当の三宅香執行役に、今年のCHRBの評価が1段階改善したことについて質問したところ「自社の企業人権宣言で、対象範囲を社内に限定していたものをイオンに関係するステークホルダーに広げたからに過ぎない。今はサプライチェーン上のデューデリジェンスを行い、3次サプライヤーまで遡り人権課題の洗い出しをすませている。今後も社会の変化やお客様の変化などを見据え、こうした取り組みも深堀していきたい」との認識を示した。
これまで人権と運用を並べてもピンとこなかった。しかし、既にマネーの流れは構築されつつある評価軸をもとに企業選別を進め始めたと言えそう。ROEで株価を語る傾向が強まっているが、資本効率の源泉が人権に絡むようだと、むしろ高い水準の背景を抑えておかないとリスクになるかもしれない。
なお、イオンはSDGsに対して積極的な姿勢を示している企業の一つ。日本経済新聞社が最近発表した「SDGs経営調査」でも偏差値65以上70未満のトップクラスの評価を得ていた。サステナブル経営を推進する意義について前出の三宅執行役は「顧客の消費意識や行動の変化に合わせていくことも目的の1つ。バイオマス製のレジ袋やエコバックの売れ行きは年々高まっている。お客様からの声を頼りにイオンがともに進めてきた施策の1つだが、海洋資源保護につながる『MSC』認証付の製品の売れ行きも上がってきており、今後このような流れはますます強くなっていくと考えている」としていた。同社ではサプライチェーン上の食品廃棄物を半減する取り組みや、使用電力を年間で15%以上削減する取り組みなどSDGsを意識した様々な取り組みを行っている。
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