QUICKコメントチーム=川口究
上場企業など国内637社について国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」にどう取り組んでいるのかをみた第1回「日経SDGs経営調査」。12月2日に公表された結果からは、投資の機会がどこにあるのかが改めて見えてくる。
SDGs経営を「環境価値」や「社会価値」、「ガバナンス」など4つの視点で評価し、総得点を偏差値で格付けしている。総得点で5を獲得すると偏差値が70以上となり、4.5の場合は偏差値65以上70未満、4.0の場合は偏差値65未満60以上と分類され、2.5から下位は偏差値が50未満となり最大で9段階に分位される。
日本経済新聞社の調べでは、SDGs偏差値が高い企業ほど、売上高営業利益率およびROE(自己資本利益率)も高い。偏差値65以上の売上高営業利益率(2016~18年度平均の中央値)は8.2%、ROEは11%だった。偏差値60以上65未満だと、それぞれ7.8%、10.1%。55以上60未満では6.7%、8.2%と下がっていった。TOPIXを1つの銘柄として見た場合の営業利益率は7.63%、ROEが9.00%(FactSet Workstationまとめ、3年平均・暦年ベース)で、SDGsを経営に活かしている企業ほど収益力が高い傾向が鮮明がはっきりみてとれる。
この偏差値評価に基づき5分位に分けて指数化したのが下のチャートだ。3年前を基準とした。
SDGs偏差値ごとのバスケットの値動き
TOPIX(グラフ青)を大きく上回り最もパフォーマンスが良かったのが、SDGs偏差値65以上のバスケット(グラフ水色)だった。本業で稼ぐ力と経営の効率性の高さが評価につながっているのだろう。社会的な課題解決に向けたイノベーション(技術革新)や、幅広いステークホルダーに配慮した経営を行えば世の中から支持されて業績も向上し、株式市場もそれを素直に好感する。このストーリーを否定する人はいないはず。SDGs偏差値と株価の騰落にはおおむね正の相関が認められ、SDGsを経営に活かしている企業のバリュエーションを押し上げているとみてよさそうだ。
一方、こうした見方も参考になる。米大手運用会社アライアンス・バーンスタインは、ESG格付けが引き上げられた世界の企業を過去10年以上にわたり分析したところ、格上げ企業はその後12カ月間のパフォーマンスが市場平均より高かったと指摘している。さらに、低いESG格付けの銘柄のほうが、格上げ時の上昇インパクトが大きいという。ESG評価機関の米MSCIによる格付けが7段階で最低の「CCC」の場合、2段階格上げされた後の1年間のリターンは市場平均を5.3%上回った。これに対して上から4番目の「BBB」銘柄が格上げされた際は0.2%高にとどまったという。
今回の日経SDGs経営調査では、SDGsの偏差値が低くても株式市場の評価は悪くない事例(グラフ灰色、偏差値50未満)もみられた。もちろん市場はSDGsという物差しだけでみているわけではない。ただそれは、収益力を高めて株価が上がりさえすればSDGs戦略や取り組みなど不要ということでは決してない。どんどん太くなるESGマネーの動きを見ていれば、SDGsを上手に経営に取り込むことが収益力と市場の評価を一段と高めるための有力なドライバーのひとつであることは疑いようがない。
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