QUICKコメントチーム=丹下智博
国際通貨基金(IMF)の最新の世界経済見通しでは、2020年の世界全体の成長率は3.4%と19年の3.0%から拡大する。しかし、米国、中国、日本は成長率の伸びが鈍化すると見られており、力強い金利上昇のトレンドにはつながりそうもない。また、この回復シナリオの鍵となるのは19年に振るわなかった新興国とドイツを中心としたユーロ圏の復調となっており、いささか懐疑的にも見てしまう。
米の利下げ転換への観測が高まった19年5月頃には、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、オーストラリア、インドなどで利下げが相次いだ。共通するのは、自国経済の成長に不安を抱えながらも、米利上げ路線が続いた18年当時には資金流出リスクと対峙せざるを得なかったということだ。米の利上げ再開のハードルが極めて高いという前提ができて、ようやく各国の中銀はフリーハンドで自国経済および通貨に対処することができる。
そうした中で注目は、人権問題に絡む大規模デモが全土に広がっているインド。大手ノンバンクの破綻で主力産業である自動車の販売も大きく落ち込んでおり、鉱工業生産のマイナスが鮮明だ(グラフ青)。しかし、12月5日の金融政策決定会合で、インド準備銀行(中央銀行)は6会合連続となる利下げを見送らざるを得なかった。モンスーンの大雨の影響でタマネギ価格が高騰し、消費者物価指数(CPI)が前年比5.5%へと上昇したことが背景にある(グラフ赤)。
カレーなどインドの食卓にタマネギは欠かせない生活必需品だ。政府はタマネギ不足を解消しようと国産タマネギの輸出を全面的に禁止した。インド準備銀行が利下げ路線を継続できるか否かは、タマネギの価格にかかっている。
国連食料農業機関(FAO)の統計によると、2017年のインドのタマネギ生産量は中国に次いで世界2位、16年の輸出量は世界1位だ。タマネギ価格の高騰は中央銀行の金融政策だけでなく、国内および同様の食文化を持つ周辺国への政情にも影響を与えると懸念されている。
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