日経QUICKニュース(NQN)=尾崎也弥
2019年の暗号資産(仮想通貨)市場でビットコインは上昇した。日本時間30日9時30分時点は1ビットコイン=7400ドル近辺と昨年12月に付けた安値の3100ドルからはかなり戻し、最悪期を脱したように見える。だが、仮想通貨の根本的な課題であるハッキングリスクの克服はいっこうに進まず、投資家の層はむしろ薄くなったようだ。20年のビットコインに待ち受ける「半減期」の試練に対し、市場では波乱含みの展開を予想する声が多い。
相場は最悪期を脱したようにみえるが……
ビットコインは4月に5000ドル台を回復したのをきっかけに上げ足を速めた。オルトコイン(ビットコイン以外の仮想通貨)の一種であるテザー(USDT)の大量発行に伴うビットコイン買いや人民元安による逃避需要もあいまって6月には1万3800ドル近辺まで急伸したが、買い手はテザーを手掛ける投資家や採掘者(マイナー)などごく限られた参加者だけ。その後、マイナーによる利益確定売りに押されて上昇は息切れした。
ビットコインは先物のプラットフォームやオプション取引などのデリバティブ(派生商品)が拡充され、機関投資家でも参加しやすい環境が整ってきた。にもかかわらず、リスクの大きさから期待ほどマネー流入にはつながっていないもようだ。
仮想通貨市場を巡る2019年の主な動き
度重なるコインの不正流出が仮想通貨の買いを鈍らせている。今年も交換所へのハッキング攻撃が相次ぎ、国内ではビットポイントジャパンでコインが不正に流出した。欧米のヘッジファンドにはウォレット(財布)など仮想通貨の運用に関わるリスク管理体制を固めているところが増えているものの、コストがかかるだけになかなか広がらないのが実情だ。
そんななかでビットコインは20年5月、4年に一度の「半減期」を迎える。マイナーが採掘の報酬としてもらえるビットコインの量が半分になるので、コイン需給が逼迫するとの思惑から従来は価格の上昇要因とみなされていた。確かに需給バランスの変化だけをとらえればそういう結論になるのだが、投資家の数が細っている足元では買いの持続性には疑問符がつく。
ビットバンクの長谷川友哉マーケット・アナリストは「今回の半減期はビットコインが一気に上げて、その後は急落する展開に注意しなければならない」と話す。流動性が高まらないなかで、マイナーや一部のトレーダーが持ち高を傾けすぎれば相場は急変動しやすい。
さらに今回はビットコインキャッシュなどの「派生コイン」も半減期になるとみられ、相場全体の変動率はより高まりそうだ。マイニング(採掘)能力の高さを示すハッシュレート(採掘速度)の乱高下がネットワークの安定性に対する懸念を連想させ、コイン需給悪化につながる可能性も考慮すべきだろう。
ビットコインによく語られてきた決済目的などの需要についてはどうだろうか。24日に仮想通貨交換業者に登録されたFXcoinの大西知生社長は「2020年の仮想通貨・暗号資産はこれまでの投機目的中心の状況から、送金や決済などの実需中心にシフトする」と指摘する。一方、どの通貨が実需コインとして生き残るかはまだ多くの市場関係者のなかで見方は固まっていない。
世界的な実需拡大に向けた動きで先行しているのは、企業や中央銀行による「デジタル通貨」だ。中国人民銀行は主要国では初めてとなるデジタル通貨の発行に2020年にも踏み切るとの観測が流れている。中国はキャッシュレス化が加速している。人民元の国際化でドルに対抗しようとする思惑もあるようだ。
それでも、課題は山積している。明確な発行者や管理者がいてもマネーロンダリング(資金洗浄)対策などをクリアしなければ先には進めない。
従来の仮想通貨では中央集権型のリップルも同じ難関に挑まなければならない。ビットコインのような非中央集権型のコインはなおのことハードルが高くなりそうだ。
※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。