日経QUICKニュース(NQN)=矢内純一
新型肺炎の感染拡大を受け、各国の中央銀行が追加緩和に動くのかに市場の関心が集まっている。そうはいっても外国為替市場などの参加者が目を向けるのは緩和余地が大きいとみなされている国だけ。日本でも日銀は警戒モードにシフトしているようだが、「日銀ができることはもうほとんどない」と見透かしている市場には響かない。
■政策余地の大きさが為替相場に響く
5日のアジア市場で象徴的な出来事があった。11時すぎにシンガポールドルの対米ドル相場が急落。一時はほぼ4カ月ぶりのシンガポールドル安・米ドル高水準を付けた。為替レートの誘導を金融政策の手段としているシンガポールで、金融通貨庁(MAS)が「シンガポールドルの誘導レートは、新型コロナウィルスによる経済の悪化に対応して十分な下落余地がある」とのコメントを発表したからだ。
■急落したシンガポールドル、大きく動かない円
よくよく読めばMASは次回の政策発表を予定通り4月とし、臨時会合を開くつもりはないという。だが「MASは通貨安を容認している」と受け止めた市場ではすかさずシンガポールドル売りで反応した。アジアに拠点を置くヘッジファンドなどの投機筋に「政策余地の大きさが為替相場に響く」との直感をもたらしたためだ。
■「動向注視」から「万全の体制」へ発言は変化したが……
翻って日本はどうか。新型肺炎の感染拡大による世界経済の下振れを意識し始めているのは日銀も例外ではないだろう。黒田東彦総裁は前日4日の衆院予算委員会で、「世界経済全体に影響することが懸念され、万全の対応をしていく」と強調した。
黒田氏は1月21日の金融政策決定会合後の会見では「今の時点で重症急性呼吸器症候群(SARS)や鳥インフルエンザのような影響があり得るとか、その可能性が高いとはみていないが、いずれにせよよく動向を注視していきたい」と述べるにとどめていた。4日の発言は追加緩和につながるような「宗旨変え」の域に入るだろう。後を追うように若田部昌澄副総裁も5日の講演で「世界経済への影響についても不確実性が高まっている」と述べた。ところが、円相場は1ドル=109円台半ばから動くことはなかった。
市場ではもともと「緩和といっても何をするのか」との認識が広がっている。しかも、黒田総裁自身も4日時点では「追加緩和するとか、その内容について言うのは時期尚早だ」と語っている。日銀が世界経済への認識を変えても「次の一歩」は遠い――。若田部氏の発言を受けてピクリとも動かなかった5日の円相場は、日銀に対する市場の冷ややかな視線を改めて示した。
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