QUICKコメントチーム=本吉亮
高配当利回り銘柄の代表として、個人投資家に根強い人気を誇るJT(2914)が苦境に立たされそうだ。前期まで長らく連続増配を続けてきたが、今期は配当据え置きの見通しを示した。厳しい経営環境のなか、配当政策が株価の拠り所だったといっても過言ではないだけに、配当余力に限界が見えてきたJT株が今後どのような評価を受けるのか着目したい。
■今期予想、コンセンサスを1割下回る
JTが6日発表した2019年12月期連結決算は、純利益が前の期比9.7%減の3481億円で、QUICKコンセンサス(10社平均)の3529億円を下回った。国内たばこ事業の低迷が続くなか、海外たばこ事業における事業運営体制の変革に係る施策費用の計上などが収益を圧迫した。20年12月期予想は純利益が前期比12.4%減の3050億円で5期連続の減益。これは、QUICKコンセンサスの3316億円を約1割下回る水準だ。
■90%に近づく配当性向、高還元政策の余力どこまで
ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点からJT株を敬遠する投資家が増えるなか、下値を買い支えていたのは個人投資家の存在だろう。SBI証券が毎週発表するNISAの買い付けランキングでは常に上位に名を連ねるなど、個人投資家の支持が厚い。その背景には6%超という高い配当利回りに加えて、前期まで16期連続で増配を実施してきたことへの安心感があったとみられる。ただ、今期配当予想に関しては、前期から据え置きの154円とした。今期で5期連続の最終減益が見込まれるなど、業績悪化局面で増配を続けてきたことから配当性向が上昇の一途を辿っていることは気がかりだ。5期前の配当性向は約53%だったが、今期は約90%に達する見込み。自社株買いを実施すれば、総還元性向は100%を超えてしまう可能性もある。
JTは株主還元方針として「強固な財務基盤を維持しつつ、中長期の利益成長に応じた株主還元の向上」を掲げており、減益が続く中での増配は本望ではないのだろう。今期業績がどれだけ悪化しても154円の配当は維持するとみられるが、今後最終増益に転じることがない限りは、これ以上の配当を出すことは厳しいとのメッセージにも受け止められ、将来的な減配リスクが浮上したという見方もできる。主力事業であるたばこを取り巻く環境が日増しに厳しくなるなか、投資家にとって最大の拠り所であった配当に頭打ち感がみられたことで、しばらくは弱含みの株価推移が続く可能性がある。
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