QUICK Market Eyes=弓ちあき
■切り下がる日経平均の予想水準
新型コロナウイルスによる経済活動低迷のリスクが一段と増している。政府は9日から中国や韓国からの入国制限に踏み切った。各国でも感染拡大懸念はくすぶっており、今後入国制限の範囲や期間が拡大すれば、企業活動への影響は一段と読みにくくなり、リスクシナリオとして2020年度の企業収益の見通しが示されないケースも想定する必要が出てくるかもしれない。
3月のQUICK月次調査<株式>では、日経平均株価の予想水準は一段切り下がった。2月調査(遅着分含む)は4月末時点で2万3680円との予想だったが、3月調査では3月末が2万1550円、5月末が2万2112円となった(図1-1)。
またGDP(国内総生産)のマイナス影響についても2月時点では「マイナス0.1%~同0.3%」の予想が6割を占めたが、3月調査では「マイナス0.3%~同0.5%」が4割超を占め、2月にはほとんどみられなかった「マイナス0.5%~同1.0%」も26%に急増し、想定を超えるインパクトが生じる可能性を織り込みつつある(図1-2)。
月次調査の回答終了後の週明けには日経平均は2万円割れとなっているため、3月末の市場予想をも現在は下回った状況だが、世界的にリスク許容度が低下する中で「陰の極」に達したと判断するには時期尚早と構えておくほうがまだ良さそうだ。値幅では3月調査の日経平均の安値予想で1万6000円(投資家)、1万2000円(証券会社)の予想も出ているほか、値幅は一服しても日柄調整も続く公算が大きい。
なお、企業の業績の下押し要因となる期間は「4~6月期」までを予想する回答が62%と最も多かった(図2)。
■ソニーに見る押し目買いの好機
ただし変動率が高まった局面で株の保有比率を引き下げる流れに押され、ひとまとめに売られている感もある。足元ではグロース株優位はより鮮明になっており、特に成長期待の高い銘柄は相対的に底堅さもある。個別株の選別に徹し、丹念にシナリオを点検するべきタイミングに変わりはない(図3)。
主力株の一例としてソニー(6758)を見てみたい。9日は急落したものの昨年来安値はまだ4割あまり上回っており、2019年3月に付けた安値(4630円)から20年1月の高値(8036円)の半値押しの水準(6333円)も上回っている。PER(株価収益率)は13.3倍と、19年5月以来の水準まで低下した。
仮に20年1~3月期のEPS(1株利益)をゼロとした場合、19年4~12月期のEPSをもとに算出した20年3月期のPER(9日時点)は14倍程度となる。この想定を基準に対ユーロでの円高影響で21年3月期に約200億円の営業減益になると仮定して、単純に減益率をEPSに反映させると14.3倍程度に切り上がる。ただ、過去1年の平均PER(13.8倍、月次ベース)を上回り、高ベータ株である点を考慮すると「割安」とは言いにくい。もう一押しが欲しいところだ。
やや目線を変え、手元資金の活用の可能性にも注目してみたい。ソニーは19年5月に発表した上限2000億円の自社株買いで、金額ベースで8割強を取得済み。自社株発表時の株価水準は5300円~5400円だったため現状の株価水準はまだ1000円あまり高いが、金融事業を除くベースで19年12月末時点でも8600億円強の現預金を保有する。自社株買いを巡って同社は「株価水準などを見ながら機動的に実施」との方針を示している。もちろんCMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサーなどの投資との見合いもある上、足元の株価水準を踏まえるとメーンのシナリオとしての可能性は低そうだ。ただ、その分追加の取得枠設定となれば収益環境を警戒する市場には力強いメッセージとなりそうだ。
■ESGも下支え要因?
ソニー株の下支え役として可能性がありそうなのがESGだ。独評価会社のアラベスクの「S―Ray」でソニーのESGスコアは65.83。国内の「耐久消費財」セクター内では3番目に高い。
また世界の機関投資家が運用の参考にするESG指数を算出するMSCIは2019年11月、ソニーのESGレーティングを「AA」から最上位の「AAA」に引き上げていた。さらに国際的な環境評価NPOの英CDPは5年連続でソニーに最高評価を与えている。
ESG投資の観点でソニーはコア銘柄と言える。そもそもESGは景気循環に連動する業績動向より環境や社会性、企業統治に重きを置く。足元のコロナ渦は確かにグローバル景気の下押し圧力として働くが、長い目で見ればイレギュラーな景気変動の材料にとどまる。ESG投資家からすれば、新型コロナがソニーを外す動機へと直接的にはつながらないだろう。既に欧州を中心にESG投資は普及している。他の銘柄に比べ売り圧力が相対的にやや弱いのも、高いESG評価も貢献している側面がありそうだ。
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