日経QUICKニュース(NQN)=田中俊行
ソフトバンクグループ(SBG、9984)の株価下落が止まらない。未公開企業株(プライベート・エクイティ、PE)に巨額投資する傘下のソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)などへの懸念が高まっているためだ。中国のネット通販大手、アリババ集団のような企業を「青田買い」し、株式投資で世界経済をリードしようという孫正義会長兼社長の戦略が、SBGの土台を大きく揺さぶり始めた。
13日のSBG株は前日比10%安の3583円と、株式分割考慮ベースで2019年1月4日以来の安値を付けた。朝方に5000億円を上限とする自社株買いを発表したが、財務悪化が懸念され、買いの手は鈍かった。
■アリババ、ソフトバンク、スプリントで溶ける時価
「景気後退期ではいくら低金利といっても、いまのような未公開株の割高な評価は許されない」。ある企業年金基金で未上場株やヘッジファンドに投資するオルタナティブ運用の担当者は、こう話す。
SBGが保有する株式価値は2月12日時点で31兆1000億円。内訳は、アリババ16兆1000億円、通信子会社ソフトバンク(SB)4兆8000億円、米通信子会社スプリント3兆2000億円、英半導体設計開発アーム2兆7000億円、SVF3兆2000億円などだ。
上場企業はアリババ、SB、スプリントで合計24兆1000億円。その後の各社の株価推移から前日時点の評価額を試算すると19兆9000億円で、4兆2000億円、率にして17%減少した。
SVFは時価がつかみにくいが、上場しているPE運用世界大手、米カーライル・グループや米ブラックストーン・グループ、米コールバーグ・クラリス・ロバーツ(KKR)は1カ月間に35%前後下落した。それを当てはめると1兆1000億円程度、価値が減った可能性がある。仮にアームが変わらないとしても全体では5兆円強、目減りした計算だ。
■未公開企業にもリスク
市場では、景気悪化で未公開企業の上場が遅れるのではとの警戒が強まっている。そうなれば、SVFは投資家に約束した運用利回りを確保できなくなり、投資家に解約を迫られたり資金集めに苦慮したりする可能性が出てくる。
東京市場では今週、クラウドサービスを提供するウイングアーク1stと創薬ベンチャーのペルセウスプロテオミクスが予定していた上場を取り下げた。上場しても初値が公開価格を下回る案件は相次いでいる。株式売り出しを停止する企業も出るなど、企業の資金調達活動に大きな影響が出てきた。
SBGが保有する分に限ったSBの推計時価総額は前日時点で約4兆6000億円。SBGの時価総額の6割に相当する。通信事業という「金のなる木」を子会社に抱え、SBGの株価には下方硬直性があるとの見方が多い。
実際、18年12月にSBが上場して以降、SBGとSBの時価総額差額は1兆円が下限となり、その水準に接近するとSBGの株価は上昇に転じている。時価総額差額は前日時点で1兆4200億円だ。
ただ、そうした経験則もコロナショックには通用しにくいかもしれない。前出の年金運用者は、「未公開株に新規で資金を投入するタイミングではない」と身構えていた。
※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。