QUICK資産運用研究所=西田玲子
新型コロナウイルスによる市場の混乱が続き、「損失限定型」をうたう投資信託の一部が存続の危機に直面している。26日には「アムンディ・ダブルウォッチ」(58311161)の基準価額が下限値(フロア水準)に到達、繰り上げ償還が決まった。
■償還まで約1カ月、「フロア水準」下回る場合も
「ダブルウォッチ」は世界の株式や債券などに分散投資するバランス型で、資産配分を機動的に変えてリスクを抑制するタイプの投信。基準価額の最高値の90%を「フロア水準」と呼ぶ下値の目安とし、このラインを割り込まないような運用を目指してきた。
アムンディ・ジャパンが3日に発表した臨時レポートでは、コロナ禍の影響について「このような市場環境でこそ強みを発揮する」としていたが、その後も基準価額はズルズルと下落。20日までに短期金融資産への配分比率を約8割まで引き上げるなどして対応したが、26日はついにフロア水準の9562円まで値下がりした。
ここから組み入れ資産をすべて売却し、現金化するプロセスに入る。アムンディによると、繰り上げ償還までに1カ月程度かかる見通し。このファンドには基準価額が下限値を割り込まないようにする「保証契約」が付いていないので、償還価額がフロア水準を下回る場合もある。
■長期の資産形成、中断へ
「ダブルウォッチ」の設定は2016年1月。運用を始めてまだ4年ほどしかたっていない。「長期の資産形成の選択肢に」、「市場が不安定なときもしっかりじっくり運用できる」といった売り文句を掲げ、「キャッシュから投資へ」を促す戦略的商品として地方銀行などを中心に33社が販売していた(26日時点)。
投資で大損したくない慎重な個人マネーを取り込み、純資産総額(残高)は18年4月のピーク時に1500億円に迫った。20年3月26日時点の残高は915億円。仮に月間の資金流入額が200億円超と最大だった17年6月(月末時点の基準価額は1万313円)にこの投信を購入していた場合、フロア水準(9562円)を償還価額として計算すると、マイナス7%程度の損失にとどまる。
それでも投資家が「長期の資産形成」や「じっくり運用」に取り組むつもりでこのファンドを買っていたとすれば、せっかくの計画が中断に追い込まれることになる。繰り上げ償還という結末にすんなり納得できるかは微妙だ。類似商品で同じケースが続出した場合、「キャッシュから投資へ」の逆流が一時的にでも起こる可能性がある。
■他の類似投信も下限値に接近
同社が運用する「SMBC・アムンディ プロテクト&スイッチファンド(愛称:あんしんスイッチ)」(58311177)の基準価額も、「プロテクトライン」と呼ぶ下限値に急接近している。販売しているのは、メガバンクの三井住友銀行を中心とした3社。26日時点の残高は1452億円にのぼり、「ダブルウォッチ」よりも大きい。バランス型の国内公募追加型株式投信では10本の指に入る規模のファンドだ。
「あんしんスイッチ」はプロテクトライン(26日時点で9000円)に到達しても、このラインを下回ることなく繰り上げ償還される保証契約付き。2月末に基準価額とプロテクトラインの差は1000円以上あったが、26日時点では残り176円になった。
りそなアセットマネジメントが運用する単位型の「みつぼしフライト」シリーズも、一部は繰り上げ償還の条件を満たしつつある。繰り上げが決まるのは①基準価額が「確保ライン」まで下落した場合か、②基準価額と「確保ライン」との差が 20 営業日連続して 50 円未満となった場合。26日時点で6本を運用しているが、このうち2本は「確保ライン」スレスレまで下がり、6営業日連続で「50円未満」の条件に該当している。このシリーズは保証契約付きで、6ファンドの合計残高は26日時点で1331億円ある。
こうした「損失限定型」投信が主に取り込んできたのは、大きなリスクを取りたくない投資初心者や経験の浅い投資家のお金だ。新型コロナによる今回の予期せぬ繰り上げ償還が、個人の資産形成にどんな教訓を残すのか。リスクを取ってリターンを上げる「投資の基本」を改めて学び直すきっかけになりそうだ。
◇りそな・リスクコントロールファンド(2019-06、2019-09、2019-10、2019-12) 足元の運用状況について
◇りそな・リスクコントロールファンド 各ファンドの足元での運用状況について
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