日経QUICKニュース(NQN)=長田善行
新型コロナウイルスの感染拡大を受け政府は株主総会の開催時期の延期など柔軟な対応を認める方針に転じる。総会の延期が相次いだ場合、期待していた配当がいつ手に入るのか、投資家は一段と疑念を深めることになる。だが市場全体で考えれば、悪い話ばかりという訳でもない。コロナ問題の収束時期次第では6月下旬に集中していた総会開催日の分散化が促される可能性がある。
■配当再投資の先物買い「7500億~8000億円」、基準日再設定でどうなる
新型コロナの感染拡大防止への取り組みが求められるなか、決算の取りまとめ作業が遅れる上場企業が増えている。金融庁や経団連などでつくる協議会は、開催日程の延期に加え、配当金の決議と決算の承認を別の日に行う2段階実施も可能だとの声明文を出す。
総会を延期した企業は配当や議決権など株主の権利を決める「基準日」を改めて設定することが必要となる。株価指数に連動した運用を目指す機関投資家の多くは3月末に基準日があると想定し、将来受け取る配当金を再投資する目的で先物買いをすでに実施済みだ。その額は市場関係者の推計で7500億から8000億円に上る。
こうした先回り買いは、「指数を構成する銘柄が減配や無配を発表したのに合わせ買い持ち高を圧縮しなければならない」(国内運用会社ストラテジスト)。
配当に関する議案を6月末の総会で決議し、決算の承認などを遅らせることは可能だが、不確実性は残る。先回り買いポジションの行方に気をもむ市場関係者は多い。
さらに総会の開催時期が決まらず、配当金に関する議案が決議されない状況が続けば、投資家は配当収入を得られないままとなり、不利益を被りかねない。
もっとも外出自粛の要請で企業活動の制約がいつ解消するのかメドがみえないのも事実だ。「総会はいずれは開催されるものと考えて、今は状況を見極めるしかない」(国内運用会社ファンドマネジャー)との声が聞かれる。
■開催日の分散や「バーチャル株主総会」が広がるチャンスか
日本企業の多くは3月期決算であり、6月下旬の株主総会の開催が通例となっている。企業価値の向上に向け機関投資家と企業の対話を促すスチュワードシップ・コード(機関投資家の行動指針)の観点から、市場関係者は開催時期の分散化を訴えってきたが、それでもなお総会集中日に開催する企業は多く、ほぼ満場一致で議案が通る「シャンシャン総会」は後を絶たない。
だが無理に6月下旬までに行わなくてもよいとなれば、企業と株主の距離が縮まるチャンスも広がる。三菱UFJ国際投信の石金淳チーフファンドマネジャーは「各企業の株主総会や有価証券報告書の提出に一定の『時間差』が生まれれば、個々の企業をより深く精査できるようになる」と話す。
インターネットを駆使した「バーチャル株主総会」への投資家のニーズも高まっている。大和総研の鈴木裕主任研究員は「制度面でまだ障壁があるが、バーチャル総会自体は技術的には可能だ。『やらないとおかしい』という議論が進みやすい環境にある」と話す。
ただし経済活動の停滞が解消される時期が仮に今年夏頃となった場合、9月下旬の総会開催を目指す企業が相次ぐシナリオも想定される。今年9月は21日に敬老の日、22日に秋分の日の祝日があり、祝日のない6月よりも総会が集中しやすい。
市場では「9月に総会が従来よりも集中するシナリオが現実となったら、日本企業の姿勢が改めて問われることとなり、投資家の失望を誘いかねない」(前述の国内運用会社ファンドマネジャー)といった懸念も出ている。