日経QUICKニュース(NQN)=神能淳志
原油価格の下落が止まらない。20日の米市場ではニューヨーク原油先物の期近物が初めてマイナスの価格で取引が成立した。新型コロナウイルスの感染拡大で需要が急速に落ち込むなか、保有するコストが価値を上回る異例の事態が発生した。主要産油国にとっての厳しい状況は「オイルマネー」の退潮を招き、新興国が受難を迎えるとの見方も広がりつつある。
■原油安の継続は、新興国の通貨安・金利上昇へ
「原油価格が1バレル30ドルを下回る水準が続けば、産油国の経常収支の黒字減少に伴って新興国で通貨が6%下がり、金利が0.60%上昇する」。シティグループは原油価格と新興国市場について、こう分析する。産油国は原油を売って得た資金を政府系ファンド(SWF)を通じて世界の金融資産に投資してきた。そのため、原油安は世界的な投資家のリスク回避姿勢と結びつきやすく、新興国への影響も大きいためだ。
■ひっ迫する産油国財政
産油国の財政状況は厳しさを増す。国際通貨基金(IMF)の試算では、財政収支が均衡する原油価格の水準は2020年の予測でサウジアラビアが約76ドル、最も低いカタールでも40ドル程度だ。ニューヨーク原油だけでなく、国際指標油種の北海ブレントや中東産ドバイ原油も軒並み30ドルを下回る水準が続く。新型コロナウイルスの感染拡大で世界景気が失速するなか、原油安が一段と産油国の財政を圧迫する。
財政だけでなく足元の原油安は経常収支の悪化にもつながる。QUICK・ファクトセットのデータでは、サウジアラビアの経常収支は19年が約500億ドル(約5兆4000億円)の黒字だった。IMFによると同国が経常収支の均衡を保てる原油価格の水準は約44ドルで、原油安が長引けば対外資産の取り崩しにもつながりやすい。
■続く供給過剰、再びマイナス圏に下落する可能性も
今のところニューヨーク原油先物相場の6月物は20ドルを上回り、マイナス価格は期近の5月物だけだが、米原油先物のマイナス圏突入は米国で貯蔵余力が乏しくなっていることが背景だ。「貯蔵余力は急に増やすこともできず、世界で日量1000万バレルを超える供給過剰が続くなかでは限月交代が近づくと先物の価格が再びマイナス圏に下落する可能性は残る」(野村証券の大越龍文シニアエコノミスト)との見方は多い。
新型コロナに伴う景気後退懸念による財政出動や対ドルでの通貨安で対外負債が増え、多くの新興国は資金繰りが厳しくなる一方だ。とどまるところを知らない原油安も経常収支の赤字が続く新興国の危機に追い打ちとなりかねない。
<関連記事>
■「原油市場は歴史的な崩壊」 NY先物の初のマイナスはなぜ起きた?回復シナリオは?
■原油先物は「超・コンタンゴ」 期先と期近の価格差が起こる仕組みとは
■NY原油先物、21年ぶり安値の14ドル台 限月交代前の手じまい売り、期近物に下落圧力
■「国際市場」香港にコロナ問題の逆風 世界景気の減速が直撃(Asiaウォッチ)