日経QUICKニュース(NQN)=松下隆介
原油先物価格に持ち直しの兆しが出ている。23日は東京原油が急反発し、ニューヨーク市場の原油先物なども堅調に推移。産油国が一段の減産に向けて歩み始めたほか、ここにきて地政学リスクの高まりも意識されつつある。原油を対象とする上場投資信託(ETF)の変動率の大きさを示し、原油版の「恐怖指数」といわれるOVX指数は22日に前日比27%低下し236.80で引けた。一時は176まで低下するなど、500を超える場面もあった前日ほどのパニック感はない。前代未聞の需給悪化をきっかけに一度は崩壊した原油市場だが、表面上は安定に向けた地ならしが進んでいるようにも映る。
■東京原油、前日比30%超反発
23日の東京商品取引所で原油は大幅高となった。売り建てていた投資家の買い戻しや新規の買いが急騰を演出し、中心限月の2020年9月物は前日の清算値と比べ30%超値上がりした。海外市場でも買い優勢で、日本時間23日の時間外取引ではWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)や北海ブレントが上昇している。
買い材料のひとつは、石油輸出国機構(OPEC)の追加減産への期待感だ。ロイター通信は22日、「サウジアラビアがほかの産油国と一段の減産に向けて準備している」と報じた。OPEC第2位の産油国であるイランのザンギャネ石油相も減産に前向きだ。OPECにロシアなど非加盟国を加えた「OPECプラス」が5月上旬に臨時会合を開き、減産を決めるとの思惑も根強い。
■地政学リスクから
中東の地政学リスクの高まりが原油価格を支えた面もある。トランプ大統領は22日、イラン艦船に対し「嫌がらせすれば撃沈する」とツイッターに書き込んだ。軍事衝突の懸念だけでない。日産証券の菊川弘之主席アナリストは、新型コロナウイルスの感染拡大による穀物の輸出制限が食糧危機に発展し「アラブの春」が再来する可能性を警戒する。内政の不安定化を防ぐために、中東産油国は原油安による財政悪化に歯止めを掛ける必要がある。
■「いまの原油価格は長期的にみて魅力的だ」
需給改善に向けた動きはグローバルに広がる。市場では、足元の価格水準を好機ととらえた中国やオーストラリアなどによる備蓄量増加を期待する声が多い。独コメルツ銀行は22日付リポートで「いまの原油価格は長期的にみて魅力的だ。大きな、戦略的購入が実施される可能性もある」と指摘する。供給側では、米エネルギー大手コノコ・フィリップスのように、自発的な生産削減を発表する企業もある。
もっとも新型コロナの感染拡大による需要減という構図は変わっていない。いまや過去最高となる1億6000万バレルの原油がタンカーに貯まり、海に浮いている。オーストラリア・ニュージーランド銀行のシニア・コモディティ・ストラテジスト、ダニエル・ハインズ氏は「短期的な需要回復の兆しはほとんどない。供給側に大きな動きがあるまでは価格を下押しし続けるだろう」と指摘し、向こう数週間で北海ブレント価格が10ドル台半ばまで下落するとの見方を示す。
市場が混乱する中、依然として一段安への警戒感が根強いのは確かだが、マイナス価格という前例のない状況に直面し、状況を好転させようとする動きが以前より強まっている印象もある。「異常事態が終わり、原油市場は正常化に向けて第一歩を踏み始めた」(日産証券の菊川氏)。悲観的なニュースだけに目を向けてトレンドの変化に取り残されないよう、注意が必要だ。
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