NQNニューヨーク=戸部実華
4月30日の米債券市場で長期金利の指標となる10年物国債利回りが0.60%を割り込む場面があった。新型コロナウイルスが米経済に与える打撃の大きさが意識され、相対的に安全な米国債の買いが一時、強まったためだ。とりわけ米経済はエンジン役の個人消費の落ち込みが鮮明。先行きも金利の上昇余地は乏しそうだ。
■4月の失業率は戦後最悪も
「まだ氷山の一角にすぎない」。バークレイズのマイケル・ゲイペン氏らは個人消費の急減が響き約11年ぶりの大幅なマイナス成長となった29日発表の1~3月期の米実質国内総生産(GDP)をこう総括した。30日もGDPの7割を占める個人消費の不安を示す指標が続き、アナリストらは経済見通しの下方修正を余儀なくされている。
米労働省が30日発表した週間の新規失業保険申請件数は383万9000件となり、新型コロナの影響で直近6週間の合計は3000万件を超えた。米労働市場で6人に1人が離職した計算になる。4月の失業率は3月の4.4%から大幅に悪化して、戦後最悪の水準(1982年12月の10.8%)を上回る可能性が指摘されている。
■統計開始以来最大の下げ幅
失業者数の急増で、米経済の成長をけん引していた個人消費の落ち込みは避けられない。米商務省が30日発表した3月の個人消費支出は前月比7.5%減と市場予想(5%減)を下回り、統計開始の1959年以来最大の下げ幅となった。サービス業の落ち込みが激しく、金額にして9876億ドル減った。
■「家計支出の回復は時間を要する」
ジョージア州やテキサス州などが小売店の営業再開を進めるが、個人消費が回復に向かうとみるのは楽観的すぎるだろう。米調査会社コアサイト・リサーチが22日実施した調査によると、3分の2の回答者が「外出制限の解除後も(ショッピングモールなどの)公共の場を避ける」という。回答者の54%が「経済的な理由で今年の年末商戦は前年よりも出費を減らす」と答えている。
CIBCキャピタル・マーケッツは4~6月期の米実質GDP成長率は前期比年率マイナス40%と予想する。失業率の改善は緩やかで「家計支出の回復は時間を要する」という。バークレイズがマイナス45%と予想するなど、戦後最悪のマイナス成長を見込むアナリストが少なくない。
むろん、治療薬などで早期に新型コロナの封じ込めに成功すれば、個人消費の落ち込みは短期間にとどまる可能性も捨てきれない。3月の個人貯金率は1981年11月以来の高水準にあり、消費抑制の反動も見込めるだろう。だが、それは楽観的すぎるシナリオかもしれない。米債券市場に資金が向かう風景は変わらないだろう。
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