日経QUICKニュース(NQN)=大石祥代
新型コロナウイルスの感染拡大で景気の冷え込みが鮮明になるなか、政府は過去最大規模の緊急経済対策を打ち出し、財政支出の財源を国債発行に頼っている。日銀も国債購入上限の撤廃などの対応策を決めた。新型コロナによる緊急事態宣言の一部地域での解除も始まろうとするなか、対策は今後の日本の景気や財政構造にどのような影響を与えるのか。日銀出身で前日本経済研究センター理事長の深尾光洋・武蔵野大学教授に聞いた。
(聞き手は日経QUICKニュース 大石祥代)
■社会のあり方激変 金融政策には限界
――新型コロナ禍は日本の景気をどの程度下押しするでしょうか。
「2008年のリーマン危機より景気は悪化しそうだ。20年1~3月期の日本の国内総生産(GDP)は、19年の水準から10%から15%減少するとみている。人の動きが制限され、打撃が大きい」
「新型コロナについては解明できていない部分も多い。他の感染症を引き起こすウイルスのように、感染で免疫ができても数年でなくなってしまう可能性もある。ワクチンができても定期的に接種を受けないといけなくなれば、長期的に感染率を低く維持するのは難しい」
――社会のあり方が大きく変わるということでしょうか。
「全然違ったものになるかもしれない。大規模なスポーツイベントや大型競技場でのライブなどはもうできない。海外への渡航などにもワクチン接種が義務化されるといった制限が加われば、航空機の需要は激減する」
「テレワークが進んで学校や企業、医療分野でのオンライン活用が普及する。公的な手続きも簡略化される。大抵のものがリモートで済むようになれば都心のオフィス需要が低下し、都心の不動産価値が下落する。不動産業でオフィスビルなど不動産を保有している企業のバランスシートが悪化するなどの影響も出てくるだろう。混乱が落ち着くまで景気への下押し圧力は続く」
――日銀は4月27日に開いた金融政策決定会合で、コロナ感染拡大で厳しさが増す景気を下支えするため、国債購入枠の制限撤廃やコマーシャルペーパー(CP)、社債の買い入れ強化などを決めました。
「ゼロ金利下で中央銀行ができることは限られている。日銀はほとんど意味がないことをやっている。日銀が何か行動を示さないと円高になるリスクがあるため、動いているにすぎない」
「量的緩和は当初のアナウンス効果が強いだけで、長期化するとその効果は薄れる。マイナス金利についても、日銀当座預金のほんの数パーセントに付けているだけで、大半の銀行は日銀からプラスの金利を受け取っている」
■直ちに日本の信用不安起きず 財政健全化は「インフレタックス」に依存
――一方、日本の財政を考えると国債発行が増えて財政健全化が遠のいています。グローバル市場で日本の信用問題が意識されるリスクが高まりませんか。
「財政健全化は当分棚上げになるだろう。一時的にせよ、大きく影響を受けるとみられる非製造業を支えないといけない。支援継続には限りがあるため、他のビジネスに移ってもらうことになるだろう。例えば、レストランは弁当宅配業者や顧客の家に出張して料理を作るなど、事業を転換するということだ」
「コロナ禍で日本だけを対象とした信用不安は起きないだろう。いまは米欧アジア、どこも財政が悪い状態で、お金の逃げる先がない」
「ただ、投資家の信用は無限ではない。どこかで政府が信用をなくす時がくる。どの時点で信用不安が発生するかは誰にもわからないが、その時点で国債や銀行券から不動産や貴金属などへの資金移動が発生する可能性が高い」
――財政再建は進められますか。
「前向きな解決策はなく、最終的にはインフレで政府債務の大部分を帳消しにする、いわゆる『インフレタックス』に頼らざるを得なくなるのではないか。財政赤字の拡大に伴い、政府への信用が薄れ国債価格が暴落し長期金利が上昇する。物価上昇で政府は税収が増える一方、名目の負債金額はそれほど変わらないため、財政は健全化する」
「ただ、物価上昇で貨幣価値が低下し、預金や国債などで金融資産を保有していた国民は大きな損失を被る。民間から政府への所得移転が起こるわけで、あったと思うお金が突然なくなる」
<略歴>
深尾光洋(ふかお・みつひろ)氏 1974年京大工卒、日銀入行。経済協力開発機構(OECD)シニア・エコノミスト、調査統計局参事などを経て慶大教授に。現在は武蔵野大教授、慶大名誉教授。前日本経済研究センター理事長。