NQNニューヨーク=古江敦子
米経済の先行きに期待と警戒が交錯する。新型コロナウイルスの感染拡大が峠を越えたとされる米国は、経済活動の再開に伴い雇用や個人消費が持ち直すと予想される。一方でワクチンなしでは感染拡大の第2波を防げないとの不安も根強い。米国景気の見通しは視界不良で、14日も安全資産である米長期国債に買いが続いた。
■「近代史で最も暗い冬」との警鐘
米中西部ウィスコンシン州の最高裁判所は13日、州政府による外出規制は「違法で即時解除」との判決を下した。14日は同州の飲食店にマスクを着用せずに集う人々の姿がメディアを通じて映された。外出規制を無効とする判決は全米でも初めてとされ、各州に広がる可能性がある。その一方、米厚生省傘下の生物医学先端研究開発局のリック・ブライト前局長は14日の議会証言で「より適切な計画がなければ、2020年は近代史で最も暗い冬になる」と述べ、感染第2波の可能性を強調した。
経済再開と行動制限を巡るジレンマは深まるばかりで、米景気の先行きは見極めにくくなってきた。14日発表の米新規失業保険の申請件数は298万1000件と雇用環境の悪化は鮮明だ。パンセオン・マクロエコノミクスは「5月は失業率がさらに上昇する」とみる。戦後最悪だった4月の失業率(14.7%)は、復職の見込みがある一時帰休者は含まれない。行動制限の解除が進まなければ一時帰休者が失業者に転じる可能性があり、回復には不確実性があるという。
■「時期相応」と「急ぎすぎ」拮抗
米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が5月8~12日に実施したエコノミスト調査によると、約7割が「スウォッシュ」字型の回復基調を見込む。これはナイキのブランドロゴに由来するもので、底入れ後に緩やかな回復が長期に及ぶという慎重な見方だ。経済活動の再開については「時期相応」と「急ぎすぎ」がともに3割と拮抗していた。
バンク・オブ・アメリカのミシェル・メイヤー氏は景気回復の道のりについて、3月の「経済停止」、足元の「底入れからの移行期」、秋以降の「回復局面」の3段階に分けてみるべきだと主張する。同氏は「底入れからの移行期」が7~9月期まで続くと予想し、その後の「回復」については「景気後退(リセッション)の様相が強く、長引く」と指摘する。米州の多くは感染検査が不十分なまま経済活動を再開しており、再び感染拡大が起これば景気が停滞し「投資家のアニマルスピリッツを抑え込む」という。
14日は景気回復への期待から米株式相場は上昇したが、米債券市場では「ワクチンなしの経済再開を評価するのは時期尚早で、米景気の一寸先は闇だ」(BMOキャピタル・マーケッツのジョン・ヒル氏)との慎重論が多い。米長期金利の指標となる10年物国債利回りは14日、前日比0.03%低い(価格は高い)0.62%と、低位安定が続く。安全資産である米国債の需要は衰えそうにない。
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