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明るい資本主義【03】国家資本主義なんか怖くない

[ざっくり3行まとめ]

  • 中国の急成長などを背景に「国家資本主義」に警戒感
  • 強力に見える国家資本主義には政府の経済支配ゆえのもろさ
  • 本当にたくましいのは価格メカニズムを持つ自由な資本主義

中国流の「国家資本主義」に世界経済が席巻されてしまうのではーー。ここ数年、自由な資本主義陣営とされる日米欧で、警戒する声が増えている。おびえる声、と言ったほうがいいかもしれない。

■国家が産業に積極介入

国家資本主義とは、国家が産業に積極的に介入する経済体制をいう。個人の自由を前提とし、政府が経済活動への介入を控える本来の資本主義とは大きく性格が異なる。

国家資本主義が注目を集めた背景には近年、中国が急速な経済成長を遂げ、国内総生産(GDP)で世界一の米国に迫ってきたことがある。

あらゆる産業でデータ分析が重要になる人工知能(AI)の時代には、国民を統制・監視するためにプライバシー情報を含む大量のデータを収集している中国が優位に立つとの見方もある。

今回の新型コロナウイルス感染拡大では、中国の強権的な対応に驚きながらも称賛する声が聞かれた。中国政府は震源地となった湖北省武漢市を即座に封鎖し、国民の移動を厳しく制限。感染者数を一時、抑え込んだ。

※中国は武漢市を封鎖しウイルスの感染を封じ込めた

※中国は武漢市を封鎖しウイルスの感染を封じ込めた

経済成長や公衆衛生という目的を達成するうえで、個人や企業の自由を尊重する本来の資本主義は、政府が強力なリーダーシップを発揮する国家資本主義に太刀打ちできないのだろうか。

心配しなくていい。国家資本主義は強靭(きょうじん)に見えても、内部にもろさを抱える。本当の意味でたくましいのは、本来の自由な資本主義だ。

国家資本主義の強みである政府の強力なリーダシップは、同時に弱点でもある。ある問題に関する政府の判断と対応が正しければ良い結果につながるけれども、逆に間違っていた場合、悪い結果をもたらす。

政府が正しい場合も間違った場合も、その影響は国全体に及ぶ。政府による経済支配の程度が強いほど、失敗した場合のダメージも大きい。

しかも、政府が間違う可能性は小さくない。その理由は「情報」にある。政府が経済を思うように運営するには、政府の下に必要な経済情報を集めなければならない。ところがここで政府は、深刻なジレンマに直面する。

■価格メカニズムが衰えるとき

そのジレンマとは何かを述べる前に、本来の自由な資本主義の仕組みを見ておこう。

自由な資本主義では、経済を円滑に運営するために政府が中央で情報を一元管理する必要はない。社会のあちこちに散らばった情報を、個人がそれぞれ持ったまま、互いに伝達する手段がある。価格メカニズムだ。

キャベツが不作だった場合、その事実を直接知っているのは、ひと握りの農業関係者だけだろう。ところが消費者は、不作の情報をわざわざ教えてもらわなくても、キャベツの消費を減らし、購入を控える。価格が上がるからだ。結果として、キャベツの供給減に合わせて需要も減り、需給のバランスが取れる。

このように自由な資本主義には、価格を通じた情報伝達の仕組みが組み込まれている。人々は価格の変化によって経済の変化に気づき、誰の命令も待たずにすばやく対応できる。それによって経済全体の調和が保たれる。

ふだんは特に意識しないけれど、考えてみれば、実によくできた仕組みだ。経済学者フリードリヒ・ハイエクは、仮に価格メカニズムが作為的な人間の設計の結果だったとしたら「人間の知性の最大の勝利の一つとして激賞されていたことであろう」(嘉治元郎・嘉治佐代訳)と強調する。

これに対し国家資本主義の場合はどうだろう。政府が経済に介入すると、価格メカニズムの機能は衰える。価格が政府によってゆがめられ、経済実態を反映しなくなるからだ。

キャベツの値段が上がっても、それは政府の買い上げ政策によるもので、実際には豊作で供給過剰になっているかもしれない。政府の介入が多くの商品・サービスに及ぶほど、価格のゆがみは広がり、経済の変化をつかめなくなる。

ここで政府は、先ほど触れた深刻なジレンマに直面する。政府は経済運営のために必要な情報を入手しなければならない。経済にとって最も重要な情報は価格だ。ところがその価格が政府自身の介入によってゆがめられているため、役に立たないのだ。

■民間活力、失う恐れも

もし社会主義国のように自由な市場取引を完全に廃止してしまったら、経済が価格メカニズムを失って機能不全に陥り、飢餓や貧困に見舞われるのは、昔のソ連や今の北朝鮮の経験から明らかだ。

だから中国は経済に介入はするものの、市場経済は残している。近年、中国が急速に経済成長できたのも、鄧小平時代の1970年代後半、それまでの社会主義体制から、不完全ではあっても資本主義経済に移行したためだ。その成果として華為技術(ファーウエイ)やアリババ集団、騰訊控股(テンセント)といった民間企業が産業の主役になった。

ところが現在の習近平政権は、この大きな流れを逆転させ、再び国家主導の色彩を強めている。国有企業に民間企業を買収させたり、国有企業どうしを合併させたりして、国有企業を強く大きくしようとする試みはその一例だ。このままだと、民間企業のもたらした活力が失われかねない。

国家資本主義を脅威として恐れる必要はない。怖いのはむしろ、自由な資本主義を掲げる日米欧が経済介入を強め、中国と同じ国家資本主義に変質していくことだ。

 

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著者名

QUICKリサーチ本部長 木村 貴


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