日経QUICKニュース(NQN)=尾崎也弥
新型コロナウイルスは世界にとって未曽有の危機となった。日本の製造業も軒並み打撃を受けるなか、ソニー(6758)は金融事業の中核化という「コロナ後」の世界を見据えた一手をいち早く打った。2021年4月からは新たに「ソニーグループ」の名のもと、グループの連携をより一層強めれば株価1万円の大台に向けた視界も開けてきそうだ。
■金融事業のソニーFHを完全子会社化
ソニーは19日、金融事業を手掛ける上場子会社のソニーフィナンシャルホールディングス(ソニーFH、8729)を完全子会社化すると発表した。約4000億円を投じTOB(株式公開買い付け)を実施する。ソニー以外の株主に流出する利益を完全子会社化で取り込めるため、21年度以降、純利益が年400億~500億円増える見込みだ。
市場では「経営の安定性や合理性が高まる」と歓迎する声が出ている。さらに金融事業をあらためて中核事業にすることでグループとしての中長期的な成長余地の拡大につながると見る向きもある。
■事業会社による金融事業、市場の評判は必ずしも芳しくはない
事業会社による金融事業については、米ゼネラル・エレクトリック(GE)のGEキャピタルなど数多くの先例があるが市場の評判は必ずしも芳しくはない。業績の振れ幅が激しい製造業を補完する上で安定した収益を上げる金融事業に目を付ける経営者は多いが、事業資産の収益性標準が違い、結果としてグループ全体で企業価値が分かりづらくなる「コングロマリット・ディスカウント」が起きやすいからだ。その分、事業の選択と集中を要求するアクティビスト(物言う株主)にも目を付けられやすい。
今回のソニーFHの完全子会社化についても「ソニーFHは非上場化で資本市場からの独自資金調達ルートを手放す一方、ソニーの株主は新たに、これまでソニーFHの株主が主に負っていた長期的な金利変動リスク(資金調達リスク)を引き受けることになる」(JPモルガン証券の綾田純也氏、19日付のリポート)点なども指摘されている。
■コロナ後を見据えた「エンタメ+フィンテック」
ただ、今は金融(ファイナンス)とIT(テクノロジー)が融合したフィンテックをメガバンクすらも追求しなければならない時代。ソニーは人工知能(AI)などの先端技術と金融ノウハウを融合し、フィンテックを活用した新サービスを展開できる。そこにはソニーの強みであるエンタメ分野での技術革新も味方になりそうだ。
ソニーが19日に開いた経営方針説明会では、アニメ事業の強化や、音や映像、通信の技術を活用したリモートソリューションへの対応などが示された。「リモート制作やバーチャルライブ、遠隔医療などコロナ後の世界でニーズが増していく新たな事業機会を取り込んでいく戦略」(野村証券の岡崎優氏、19日付リポート)と前向きな評価が出ている。「生活スタイルの変化に対応したさまざまなサービスを金融事業で確立したプラットフォームや顧客基盤を活用して提供するシナジー効果が次第に出てくるかもしれない」(藍沢証券の三井郁男・投資顧問部ファンドマネージャー)との声もある。
■株価1万円を目線にしてもおかしくない
20日のソニー株は昨日の上昇の反動もあって下落した。終値は前日比155円(2%)安の6747円。今年1月に付けた約18年半ぶりの高値までの株価のけん引役は、CMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサーの成長だったが、最近は新型コロナウイルスの感染拡大の影響から6500~7000円台で上値が重い。米中関係悪化のあおりで中国・華為技術(ファーウェイ)への規制が強化され、CMOSセンサーの供給に影響が出るという見方もある。
それでも日本の電機メーカーとしては珍しい事業構造を武器に、逆風への耐性は着実に高まっている。年末商戦に向けてファン待望の「プレイステーション(PS)5」の発売を控える。「中長期的には1万円を目線にしてもおかしくない」(藍沢証券の三井氏)。新生ソニーに対する市場の期待感はやはり高いようだ。
<関連記事>
■ソニーの株価にコロナ耐性アリ? 平均下回るPERと高ESG評価が支え