2020年5月25日、新型コロナウイルス危機に対する緊急事態解除が宣言された。業種別に自粛も徐々に解け、3密を避けるために開催が延期されていたアートオークションも、5月中旬に毎日オークションでセールが開催されたのを皮切りに、6月に入りセールが開催されるようになった。
■予想上限を上回る高額落札
今回は、6月6日(土)に開催されたシンワオークションについてレポートする。本オークションは、3月28日(土)に開催を予定していたオークションで、バッグ・ジュエリー・時計のセールに加え、戦後美術&コンテンポラリーアート、近代美術(Part II)のセール内容となっている。セール全体の出来高は、全体落札総額2億1065万円(落札手数料含まず※以下同)、全体落札率83.00%と、コロナ禍による影響が懸念された中、活況を呈した。中でも、戦後美術&コンテンポラリーアート、近代美術Part Ⅱ では、311点の作品がセールにかけられ、出来高は、落札総額1億8667万5千円、落札率は87.78%という高い水準であった。コロナ禍の経済悪化を感じさせない力強いセール結果となっている。
最高額での落札となったのは、モーリス・ユトリロのパリ郊外の見通しの良い通りをモチーフとした白の時代の油彩・キャンバスの作品Lot356「郊外の通り」で、落札予想価格1500~2500万円のところ、1650万円で落札された。次いで、加山又造のLot257「不二」(紙本・彩色)。富士山が金泥で描かれた作品で、落札予想価格1000~2000万円のところ、1550万円で落札された。同様に富士山が群青で描かれた作品Lot258「青富士」の出品があったが、落札予想価格500~1000万円に対し、落札予想価格上限を上回る1100万円の高額落札となっている。オークションカタログ内で「加山又造の富士」という特集が組まれ、作品の重要性が見開きページで解説されており、そのことも高額落札への後押しとなったかもしれない。
■「もの派(※1)」の中心的作家、李禹煥
今回は、日本とフランスを拠点に国際的に活躍する韓国出身の現代美術家、李禹煥(リ・ウーファン,1936-)にスポットを当て、レポートする。
李禹煥は、1960年代末から70年代初めに日本で起こった芸術運動「もの派」の中心的な作家の一人で、理論的な基盤を築いた作家と言われる。 ガラスや鉄板などで構成され「対象物の配置のみ」のインスタレーションや、キャンバスに線や点を反復的に描いていく「From point」「From line」シリーズなどが代表作として広く知られている。
本セールでは、3点の版画作品が出品され、いずれも落札予想価格内、予想価格上限越えで落札されている。その中の1作品、Lot281 「IN MILANO 5」(150.0×89.0㎝)は、落札予想価格20~30万円に対し、上値の1.4倍の42万円で落札された。「IN MILANO 5」は、1992年に制作された5点組の版画(リトグラフ・ドライポイント)作品で、これまでも5点組や単品でセールにかけられることがあった。「IN MILANO」シリーズの単品作品の落札データを2015~2020年のオークションデータを抽出分析したACFパフォーマンス指標で読み解く。
落札価格平均は、10数パーセント程度の上下変動があるものの、全体としては35~42万程度の横ばい傾向で落ち着いている。2019年まで落札予想価格上限下限内に収まりながらの推移となるが、2020年になり、落札予想価格上限を上回る結果となっている。出品時の評価は多少下がることがあっても、大きな下落もない堅実さが見て取れる。時価指数も同様の動きを見せ40万前後で推移しており、こちらからも安定した銘柄であることがわかる。
海外でも評価が高く、オリジナル作品は億を超える落札もあった李禹煥の作品。コレクションに検討してみてはいかがだろうか。
▼もの派とは(※1)
金属・土・石や木などのものを素材とし、多くの加工を施すことなく、空間・物の在り方や事柄など本質的な問いを表現した1970年前後の日本で起こった芸術運動。
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