7月7日の米国債市場で長期債相場が上昇し、10年物国債利回りは前日比0.03%低い(価格は高い)0.64%で終えた。新型コロナウイルスの感染拡大が景気回復の重荷になるとの警戒感が強く、債券買いが優勢となった。米連邦準備理事会(FRB)高官からの景気に慎重な「ハト派」発言が相次いだのも相場を支えた。
■「米経済活動は横ばいに」
最近「時の人」となっているアトランタ連銀のボスティック総裁の発言が7日も話題となった。2017年に就任したボスティック総裁は12ある連銀で初めての黒人総裁だ。全米で人種差別を問題視する風潮が広がるなか、同総裁は6月半ばに公表したエッセーで「制度化された人種差別が多くの米国人の経済や教育機会を制限している」と指摘。「システムに組み込まれた人種差別は米経済を引きずるくびきだ」と主張した。
人種による経済格差などに言及しても、人種問題に踏み込んでこなかったFRBからの思い切った発信は注目を集めた。総じて好意的に受け止められたようで、経歴などを改めて紹介する報道が目立つ。アトランタ連銀は今年は金融政策決定の投票権を持たないが、新型コロナの感染者数の再拡大が顕著なフロリダなど南部の州を管轄とする。この点でもボスティック総裁の景気に関する見解は注視されやすい。
6日夕の英フィナンシャル・タイムズ(FT、電子版)によると、ボスティック総裁は「米経済活動は横ばいにとどまる可能性がある」と述べた。7日にはコロナの感染再拡大を巡り「(米企業経営者や消費者ら)人々は再び神経質になっている」として、この状態が「期待していたより長引くことの現実味が増している」と話したことが伝わった。
■「FRBが再度行動する余地はある」
ほかの地区連銀総裁も景気への慎重さで歩調をそろえた。リッチモンド連銀のバーキン総裁は7日、「FRBの大きなバランスシートがインフレ率を押し上げる可能性は依然小さい」とし、失業率の高さなどを理由に「FRBが再度行動する余地はある」と話したと伝わった。同総裁は10年ぶりの利下げを決めた昨年7月末の米連邦公開市場委員会(FOMC)前に利下げに消極的な認識を示すなど典型的な「ハト派」ではないが、現状は緩和に前向きだ。
サンフランシスコ連銀のデイリー総裁も7日、「FRBの政策はいまは経済を刺激するのではなく支えるのが狙いだ」と話し、米景気の弱さを強調した。
米財務省が午後に結果を発表した3年物国債入札では、落札利回りは過去最低となり、市場実勢を下回った。国債需要の高さを示したとして、結果発表後に相場は上げ幅を広げた。
最近は6月の雇用統計やサプライマネジメント協会(ISM)製造業・非製造業景況感指数など強いマクロ指標が目立つが、債券市場は景気の不透明感を示す材料に敏感に反応しやすい。長期金利は当面は低い水準で推移しそうだ。(NQNニューヨーク 川内資子)