SDGsの今を知る VOL.4 クラウドクレジット編集部
Goal 3は「すべての人に健康と福祉を」となっており、世界中のあらゆる人々が健康的に生活できるよう、様々な指標を世界共通の課題として定めています。
ここでは、元々MDGsで3つに分けられていた目標4(幼児死亡率の引き下げ)、目標5(妊産婦の健康状態の改善)、目標6(HIV/エイズ、マラリア、その他の疫病の蔓延防止)が、SDGsのGoal 3の指標にまとめられた上、その他の指標も新たに追加されています。
このことからもGoal3のカバーする範囲の広さや達成意義の大きさが伺えます。
【現状認識】
3.1 妊産婦死亡率について
この指標はMDGsの達成状況で最も進捗に遅れがあったものの一つです。特にサブサハラアフリカ諸国の状況が悪く、改善傾向は見られるものの、2017年時点で10万人の出生数に対して534人の妊産婦が亡くなってしまっています。これは、1000人の出生数に対して5-6人の死亡件数ということになります。
女性の人生の中でとても重要な意味を持つ出産で、現代でもこれだけのリスクを負わなければならないということになります。生まれた場所や環境の違いで、これほどの死亡確率の差ができてしまうような状況は、SDGsの様々な指標の中でも最優先で達成されるべき指標の一つと言えるでしょう。
3.2 5歳未満児の死亡率
外務省が公表している2015年版開発協力白書によれば、世界全体の5歳未満児死亡率が1990年から2015年の間に全体で53%と大きく減少しているとの報告がされています。
2018年の地域別死亡件数を見てみると、主に南アジア、サブサハラアフリカ諸国の割合が非常に高くなっています。これらの地域では出生率が高く、1世帯当たりの子供の数が多いことや、少ない金銭収入による貧しさを抱えているケースが多く、新生児に必要な医療や栄養が不足しがちです。母体・新生児が必要な栄養をしっかり摂ることや、病気に対する適切な対処をすることなどで救える命がたくさんあるのです。
3.3 エイズ、結核、マラリアその他の感染症について
この指標はMDGsの期間で最も改善が見られた指標の一つです。感染症は国内の問題にとどまらず、国境を越えて世界全体の社会、経済に大きな影響を与える可能性があります。新型コロナウイルスの蔓延でも、感染症が全世界に及ぼす健康・経済への影響の大きさは一目瞭然です。そのため、感染症関連の危機は、国際的な注目を浴びやすい傾向にあります。世界の新規感染者数は改善傾向にあるものの、やはり進捗には地域格差がみられ、例えば、今年のWHOの報告では、世界のマラリア感染者総数のうち、93%がアフリカ地域に集中しているようです。
上記のほか、Goal 3では3.4-3.6まで、先進国途上国を問わず、自国の重要課題として認識すべき項目を定めています。3.4では、非感染症である癌や脳卒中等の循環器系疾患の対策について、3.5では3.4と関わりの深いアルコールや薬物、生活習慣病を指標に含めています。3.6の交通事故も、世界の健康上の脅威として認識されています。
【解決への鍵】
進捗状況が悪い国々では、高額な医療サービスや医療機関へのアクセスの難しさ、薬品や医療従事者の不足等、課題は山積みのようです。また、病気や医療サービスに関する知識の不足や、健康管理に関する意識の低さなども健康上のリスクを高めてしまう要因となっています。
課題が多く存在する中で、Goal 3の指標の続きには、解決へのアプローチの指針を見ることができます。
3.7 家族計画・リプロダクティブヘルスの推進
家族計画とは、ある世帯にとって適切なタイミングで適切な数の子供を安全に産むための計画です。世帯が多くの子供を抱えすぎ、適切な栄養摂取や保健、医療的ケアがおろそかになってしまうようなことを防ぐためです。世帯の貧困問題自体を軽減する可能性さえも秘めています。また、その計画を実現させるには、性感染症予防や妊産婦の定期健診、安全な出産ができるような環境が必要です。こうしたアイデアが、個人の意識レベルに浸透し、サービスとして拡充することが、特に達成状況の悪い国々で重要な指針となります。
3.8 ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)の達成
持続的に国民の健康と福祉を確保するには、それを国家の制度として確立しなければなりません。3.8では、UHC(全ての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態。厚生労働HP 引用)を、医療制度の水準として指標に定めています。
日本では手ごろで適切な医療へのアクセスが広く保障されており、医療に対して強い不安を感じることは少ないのではないでしょうか。国民皆保険制度に加え、高いレベルの医療機関が全国に備わっていることが、UHCの達成を可能にしています。
そのため日本のような医療先進国は、他国に対して、医療財政・行政の構築から医療従事者の育成に渡って、幅広い知見を共有することが可能です。指標の3b、3cにも定められているのは、UHC達成を含めた開発途上国の医療を改善するための国際的サポート体制の在り方と言えそうです。
【終わりに】
医療の現場とは、医療従事者でない人々にとっては遠い世界のように感じるかもしれません。また、それが遠く離れた地域の問題とあれば、問題意識を持ち、何か具体的な貢献をするのは難しくなります。しかし、情報に触れ知見を増やすこと、そして正しい情報を自ら発信することだけでも、少しずつ未来の前向きな変化が生まれていきます。日常の何気ない会話の中でSDGsに関する話題が出るだけでも、他者の関心を高め、あるいはその関心が巡りめぐって薬という形になり、生命を救う可能性があります。他国のことでも、多くの命が失われる現状に関心を持つ人はいるはずです。そんな人々が増えていくことで、新たな寄付や援助が生まれるような社会の雰囲気の醸成もされていくかもしれません。この連載も、ささやかながらこうした前向きな変化の一部となっていれば幸いです。
(月1回配信します)
写真=Linh Pham/Getty Images
クラウドクレジット株式会社 :「日本の個人投資家と世界の信用市場をつなぐ」をコーポレートミッションとして掲げ、日本の個人投資家から集めた資金を海外の事業者に融資する貸付型クラウドファンディングを展開。新興国でのインフラ関連案件も多く、現地のマクロ・ミクロ経済動向などに詳しい。累計出資金額は約304億円、運用残高約156億円、ユーザー登録数4万7000人以上(2020年7月13日時点)