新型コロナウイルスの感染拡大の影響が促すニューノーマル(新常態)で、EC(電子商取引)関連の企業がコア銘柄として注目を集めている。EC事業ですでに強力なプラットフォーマーである楽天(4755)、ヤフーを傘下に持つZホールディングス(4689)はもとより、特化した市場で事業展開を進めてきた工具・工場用品通販のMonotaRO(3064)やアパレル通販のZOZO(3092)も、年初から株価は軒並み上昇し、日経平均株価をアウトパフォームしている(図1)。
経済産業省の2019年の調査によると、18年のEC化率(流通に占めるEC経由の比率)で日本は7.3%と、2割前後に達する中国や韓国などに比べるとまだ低い。裏を返せばそれだけ市場拡大余地はあり、新型コロナによる「新常態」で一気に加速する可能性もある。
■専業型EC
すでにECでの商品取引は日常生活の中に浸透しており、上場企業の中でも手掛けている企業も多い。新型コロナの影響で実店舗の売り上げが低迷する中で、アパレル企業が自社サイトでの販売を伸ばしていたのは印象に残るところだ。
一方で、物販分野でEC強化の流れが加速すれば消費者にとって選択肢が増えるものの、何を選ぶかが難しくなっていくことも予想される。漫然とネット上を探るのではなく、「Aを買うならB」といった、より目的や専門性にひも付けたサービスが求められていきそうだ。その観点で注目したいのは独自色の強いECを展開している企業だ(図2)。
年初来の株価上昇率が目立った企業でみると、首位は家具のネット販売を手掛けるベガコーポレーション(3542、マザーズ)だった。EC専業で自社商品を中心に、個性ある家具販売を展開しており、21年3月期も増収増益を見込む。また、海外ユーザー向けに日本製品を販売する越境ECプラットフォーム「DOKODEMO(ドコデモ)」を展開している。訪日外国人(インバウンド)が当面は見込みにくい状況下、海外向けに商品を販売したいと考える中小事業者は増える可能性もある。
2位のcotta(3359、マザーズ)は小売店などに包装材などを販売する事業を手掛ける一方、個人向け製菓やパン材料の通販が新型コロナによる「巣ごもり」で伸びた。足元の好調は特需の側面は否めず注視が必要になりそうだが、知名度の向上や新規顧客を獲得した点は収益基盤の安定化に寄与した可能性がある。
野菜のネット通販、オイシックス・ラ・大地(3182)は農家と契約して会員に野菜を届ける。M&A(合併・買収)で顧客基盤の拡充が進んでいるほか調達網も構築し、独自のプラットフォームを持つ点が強みだ。
特定のニーズに特化したプラットフォームは今後、EC化が進む中で存在感を高めそうだ。13日にオンワードホールディングス(8016)はサービスを巡る見解の不一致でいったん退店したZOZOのZOZOTOWNへの再出店を決定。ZOZOの集客力を生かす戦略に舵を切ったとみられる。また、ZOZOに関していえばヤフーがECサイト強化の流れの中で19年に出資したほか、ヤフーはオフィス用品通販のアスクル(2678)、ネットで出前注文を受ける出前館(2484、ジャスダック)にも出資している。ZHDは特定分野のプラットフォームを持つ企業に出資することでサービスのラインナップ拡充を進めている印象だ。過去には健康食品や医薬品の通販サイトを運営するケンコーコムを楽天が完全子会社化した例もある。こうしたサービス集約化のシナリオも、専門性が高い分野で独自の顧客基盤を持つ企業への投資を考える上で有望なテーマだ。
■「BtoB」のEC
専門性に特化した企業が多く、コスト削減ニーズから引き合いが期待できる点で「BtoB(企業間取引)」のECにも注目したい(図3)。
ラクーンホールディングス(3031)は決済支援サービスのほか、事業者向け卸・仕入れサイト「スーパーデリバリー」を展開している。スーパーデリバリーはアパレルや雑貨を中心とするメーカーが卸販売したい商品をサイトに掲載し、それらの商品を求める事業者が仕入れをするサービス。商品代金はすべてスーパーデリバリーがメーカーに代わって回収するため、メーカーは与信管理の手間が省け、代金未回収のリスクを回避できる。小口取引の手間を軽減することで顧客層を広げ、商機の拡大につなげたい企業のニーズを取り込む仕組み作りができている。収益性は高く、20年4月期の売上高営業利益率は20.3%に達した。
ビューティガレージについてはいちよし経済研究所が9日付で「A(買い)」で投資判断を開始。美容品の専門商社の中においてECで先行しているため、コスト削減ニーズを追い風にしたECの需要増を背景にシェア拡大によって高い利益成長が見込めるとみているもよう。
新型コロナ「第2波」への警戒感も強まる中、ECサービス企業には当面株価に追い風が続く可能性が高い。一方で「山高ければ谷深し」の相場格言にもあるように、期待通りの成長が描けなければ失望売りも大きくなる。期待の先の「優勝劣敗」も見極めた上で、銘柄選別のシナリオを点検する局面に入ってきている。(QUICK Market Eyes 弓ちあき)
<金融用語>
BtoBとは
Business to Businessの略称。インターネットの普及で多様化した商取引の形態を区別するため、一般消費者向けのビジネスを指す「BtoC」に対し、「BtoB」は、製造業者(メーカー)と商社、卸問屋と小売店など、法人顧客相手の「企業間取引」を指す。もとは電子商取引に関する用語だが、近年は一般商取引にも使われる。取引される商品は完成品ではなく素材や部品等が中心。市場規模が縮小する業界では、成長分野としてBtoBを強化する傾向がある。