7月16日の東京株式市場で、自動車向けのベアリングなどを製造する不二越(6474)の株価が急落した。新型コロナウイルスの感染拡大による自動車販売の低迷などで業績が大きく落ち込む見通しが示されたためだ。配当予想の取り下げに加え、利益見通しの下方修正で予想PER(株価収益率)は跳ね上がり、押し目買いも難しくなっている。
■2カ月ぶりの安値
16日の不二越の株価は前日に比べ240円(7.0%)安の3190円まで下げ、5月22日以来およそ2カ月ぶりの安値を付ける場面があった。終値は3255円と6%安だ。不二越は15日、2020年11月期の連結純利益が前期比90%減の8億円になる見通しだと発表し、失望した売りが膨らんだ。17日は前日終値付近で小動きとなっている。
従来の純利益予想は3%減の80億円だった。市場予想平均(QUICKコンセンサス、7日時点で5社)である45億円も大幅に下回った。業績の下方修正について、SMBC日興証券の担当アナリスト、笹尾飛鳥氏らは15日付のリポートで「売上高の底は6~8月期となり、その他の設備投資関連需要等の鈍さから、9~11月期も大きな改善はみられないという前提だろう」と指摘する。
不二越の売上高(前期ベース)はベアリングなどの部品事業が5割超を占める。19年12月~20年5月期の実績では、ベアリングの売り上げは前年に比べ2割弱減少。新型コロナの感染拡大で自動車など顧客工場の操業停止が響いている。
■主因は配当予想の取り下げ
「新型コロナで業績低迷はある程度予想はできた。きょうの売りの主因は配当予想が分からなくなったことだ」。国内運用会社のファンドマネージャーはこう指摘する。
不二越は業績下方修正とともに、前期並み(100円)としていた今期配当予想を取り下げた。東証1部全銘柄(単純平均)の1.8%と比べても高かった予想配当利回り(3%)が未定となり、投資指標面での支えを失った。今期利益見通しが10分の1になったことで、予想PER(株価収益率)も急上昇し、足元では100倍に近い。PBR(株価純資産倍率)が1倍を割り込んでいても、割安と判断する材料が見当たらない。
■「正常化に向かえば買い戻されやすい」
不二越はベアリングなどの部品事業に加え、ロボットなどの機械工具事業も手掛ける。海外売上高比率は4割を超え、株価は良くも悪くも国内外の製造業の動向に左右される。
足元では米国での新型コロナのワクチン開発期待が強まっている。16日に発表された中国の6月の鉱工業生産は前年同月比4.8%増と、3カ月連続のプラスだった。あるアナリストは今期の業績悪化について「固定費削減の計画を大幅に積み増したため」とみる。「世界的に生産活動が正常化に向かうとの見通しが立てば、部品やロボットを手掛ける不二越は買い戻されやすい」(前出のファンドマネージャー)との声もある。とはいえ、明確な支援材料を見いだしにくい状況では当面、下値不安は拭えないだろう。〔日経QUICKニュース(NQN)矢内純一〕
<金融用語>
QUICKコンセンサスとは
証券会社や調査会社のアナリストが予想した各企業の業績予想や株価レーティングを金融情報ベンダーのQUICKが独自に集計したもの。企業業績に対する市場予想(コンセンサス)を示す。一方、「QUICKコンセンサス・マクロ」は、国内総生産や鉱工業生産指数など経済統計について、エコノミストの予想を取りまとめたものをいう。 QUICKコンセンサスを利用したものとして、QUICKコンセンサスと会社予想の業績を比較した「QUICK決算星取表」や「決算サプライズレシオ」、QUICKコンセンサスの変化をディフュージョン・インデックス(DI)という指数にした「QUICKコンセンサスDI」などがある。また、「QUICKコンセンサス・プラス」は、アナリストの予想対象外の銘柄に会社発表の業績予想などを採用して、国内上場企業の業績予想を100%カバーしたものをいう。