米国の政治は日曜日にはじまる。テレビ・ネットワーク各社が日曜朝に放送する報道番組で米国の政治が動くことが過去に何度もあった。CBSとABCの19日放送分の報道番組は人種差別の撤廃に尽力したジョン・ルイス下院議員の死去に長い時間を割いた。マーチン・ルーサー・キング牧師らと公民権運動を指導したこと、「私の英雄だった」とするオバマ前大統領のコメントなどが詳しく紹介された。
ミネソタ州ミネアポリス近郊で5月25日に白人警官が黒人のジョージ・フロイドさんを暴行死させた事件をきっかけに抗議行動が全米に拡大した。規模は縮小したが、ロサンゼルス市庁舎や連邦政府ビルの周辺では、いまも抗議デモが続いている。新型コロナウイルスの感染が再拡大したことを受けメディアの関心が移ったが、ルイス氏の死去をきっかけに人種差別問題が再び注目される結果になった。
NBCは19日の朝の報道番組でルイス氏の死去をトップで伝えたものの、新型コロナウイルスの問題にほとんどの時間を割いた。ネットワークの対応がわかれるのは異例だ。CNNはルイス氏の死去と新型コロナウイルスをめぐるニュースを交互に繰り返し伝えた。人種差別問題と並んで新型コロナウイルスの関心が高いことが伺える。
ジョンズ・ホプキンス大学のまとめでは、米国時間19日午後時点の新型コロナウイルスの世界の感染者は1443万人。世界で最多の米国の感染者は376万人と、世界の4分の1以上を占める。先週後半から死者が急増し警戒感が高まっている。19日までに米国で14万人超が死亡した。
全米で人口が最大のカリフォルニア州では19日までの感染者が38万人を超えた。感染者が15万人超と深刻なロサンゼルスのガルセッティ市長は、CNNのインタビューで、「経済活動の再開を急ぎ過ぎた」と述べ、外出禁止措置を再導入する可能性があると警告した。
カリフォルニア州のニューサム知事は13日、レストランの屋内での飲食やバーの営業を禁止、博物館と映画館に休業を命じた。感染者の増加ペースが加速しているロサンゼルス市は秋からの学校の授業を全てオンラインにすることを決めた。美容室やネイルサロンの営業が再び禁止された。ガルセティ市長の発言は自粛措置をさらに強化し、2回目のロックダウン(都市封鎖)を導入する可能性を示唆したものだ。
感染拡大のニュースがテレビ、ネット、SNSで幅広く伝えられているが、ロサンゼルス市民の生活に大きな変化はない。近所のスポーツジムは閉まっているが、プールから子供の声が聞こえる。公園では家族連れがピクニック。4月にスーパーマーケットの商品棚から消えた一部の食料品、トイレットペーパー、ハンドサニタイザー、そしてマスクが山積み。ただ、在宅勤務が年末まで延長されたという話を複数聞いた。
11月3日の米大統領選まで4カ月を切った。2016年の選挙では「米国第一主義」と「世界協調」が最大の争点だった。今回の選挙戦では、民主党候補に確定したバイデン前副大統領が米国の製造業を強化する「バイ・アメリカンズ」を打ち出したことで、トランプ大統領との主張の差がほぼなくなった。選挙は人種問題と新型コロナウイルス対策の2大争点になる。トランプ氏とバイデン氏の主張が大きく異なるテーマだ。
米ワシントン・ポスト紙が18日に発表したABCとの最新の世論調査は、バイデン氏の支持率が55%に上昇、トランプ氏の40%を15ポイント上回った。トランプ氏がバイデン批判を強め有権者の関心を移そうとしているが、11月の選挙はトランプ氏の信任投票の意味合いが大きいとワシントン・ポスト紙が解説した。バイデン氏は新型コロナウイルスのトランプ政権の対応を徹底批判し、副大統領候補に黒人女性を指名する公算が大きい。
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Market Editors 松島 新(まつしま あらた)福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て2011年からマーケット・エディターズの編集長として米国ロサンゼルスを拠点に情報を発信