南カリフォルニアと聞くと、米国人は青い空を思い浮かべる。ロサンゼルスで4月以降に雨が降った記憶はない。傘を持っていない人も多く、雨が降ると会社や学校を休む人もいる。11月6日のロサンゼルスも晴天。雨が降っていないのに、フリーウェイはいつもの渋滞はなく、妻の職場である大手エンターテインメント会社は欠勤した人が目立ったという。大統領選の結果がメンタルに影響。ドジャースのワールドシリーズ勝利で沸騰したロサンゼルス市民の心は凍りついた。グーグル・トレンドで「移住する方法」の検索が急増した。
ブルーステート(民主党優勢州)のムードと対照的に、金融市場はトランプ氏勝利に沸いた。世界の資金が米国に流入。トランプ次期政権の減税や規制緩和に期待した米株式市場で「トランプ銘柄」を中心に買いが膨らんだ。S&P500種株価指数は最高値で選挙週の取引を終えた。暗号資産(仮想通貨)のビットコインは連日最高値を更新。イーサリアムやソラナも急騰した。米国債利回りは選挙後に一時上昇したものの、週間ベースでは低下。ドル指数は選挙後の上昇分をほぼ消した。ブルームバーグ通信は、「トランプ・トレード」に殺到した投資家の熱狂が一部の資産クラスで冷めつつあると伝えた。投資家は冷静になりつつある。
今後はトランプ次期政権の政策の実現性が市場を動かしそうだ。トランプ氏は全外国製品に10~20%の関税、中国製品には60%の関税を課すと公約。ニューヨーク・タイムズは、幅広い企業が在庫を増やすなど関税引き上げの準備を急いでいると伝えた。ウォール・ストリート・ジャーナルは、2期目のトランプトレードは1期目より恐ろしい可能性があると報じた。トランプ減税が経済成長を押し上げると同時に、インフレと財政赤字増を招き、米国債利回り上昇で株式の上昇基調に影響するかもしれないとしている。就任後の最初の100日で関税と減税の公約をどこまで実現させるか、具体的にどうなるか投資家が注目する。
米連邦準備理事会(FRB)への影響も警戒されている。FRBのパウエル議長はトランプ氏に要求されても辞任しないと明言したが、2017年に発足したトランプ1期目と比べ、「トランプ2.0」の影響力は格段に大きい。ホワイトハウスと上下両院が共和党を制する「レッドスウィープ(トリプルレッド)」の可能性は高く、最高裁の判事は10人中6人を保守が占めている。法律修正や政策のハードルは低い。CNBCは、トランプ氏の支持者であるテスラやスペースXの最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスク氏が、トランプ氏のFRB政策への介入を支持したと報じた。
トランプトレードは状況をにらみながら見直されそうだ。1月20日の就任まで2カ月以上あり、いまは観測に基づいた動き。ゴールドマン・サックスは8日付のメモで、関税の行方が選挙後の焦点とコメント。JPモルガンは6日付のメモで、仮に共和党が下院を制しても民主党との議席数の差は小さく、主要な政策提案は交渉と妥協が依然必要になると指摘した。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。