米中関係の悪化懸念が強まっている。中国は四川省成都市にある米国総領事館を閉鎖する見込みで、株式市場は米中関係のヘッドラインや上海総合指数の動向に振らされる可能性を強めている。
■フェーズ1合意はゾンビ状態
国際情勢に詳しいユーラシア・グループは24日付のリポートで「米国が閉鎖を命じた中国の領事館は中国の影響力による操作と、米国の知的財産の盗難の拠点であったと米国当局は主張している。しかし、それらの懸念の程度、またはそれ以上に政治的要因、米国の行動の動機は不明のままだ」と指摘した。その上で中国が24日、米国総領事館を閉鎖するという報復措置を発表したことを踏まえ、「米中の貿易協議のフェーズ1合意は、そのディールがゾンビ状態でも米大統領選挙を通じて米中双方が存続させる可能性が高いとみられるが、政治力学が悪化していることからその生き残り確率は70→65%にやや低下するだろう」と指摘した。米国内で動画アプリのティックトックの制裁論が出ているほか、香港国家安全維持法の制定を受けて人権問題を巡って米中関係が悪化していること、南沙諸島や東シナ海、台湾環境での中国の軍事的な活動に対する米国の対応を巡り、深刻な危機に繋がる火種が残っていることにも警戒していた。
■米大統領選挙を控え弱腰外交に?
一連の展開の布石となったのは、ポンペオ米国務長官が23日に行った演説だ。報道によれば、強権的な手法で影響力を強める中国に「私たちが共産主義の中国を変えなければ、彼らが私たちを変える」と警戒感を表明したという。1972年に電撃訪中して対中外交を切り開いたニクソン元大統領ゆかりの博物館を選んで、過去の関与政策の失敗を大胆に指摘した入念に準備されたものだった。
今回のポンペオ演説について、米証券会社レイモンド・ジェームズは24日付のリポートで「これは中国をターゲットとする追加の米国政策の進展の前置きと見なされる」としながら、「次のカタリストは、金融市場に関する大統領ワーキンググループが8月上旬に提出する勧告で、ここでは予想よりも厳しい資本市場の制限を生み出す可能性がある」と指摘した。具体的には、中国株への退職年金の流れを制限する可能性があるといい、「サプライチェーンと投資にマイナスの影響を与える可能性が高まっている。中国の指導者達は今後数カ月でより積極的な行動を取るかも知れない」と指摘。米大統領選挙を控え、トランプ大統領としては弱腰外交が弱点になる恐れがあることを踏まえ、事態がさらに悪化する可能性を警戒した。日本としても対応を迫られるかも知れない。
■市場が大統領選を予想するのは困難
米政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」がまとめた各種世論調査の平均は、トランプ米大統領を「支持する」と回答した割合は42.2%と、「不支持」の56%を下回っている。直近では、支持‐不支持スプレッドが拡大傾向にある。
ジェフリーズは27日付リポートで、「世論調査や再選予想オッズでは、トランプ米大統領の再選の可能性は消えたように見える。ただ、米中関係や新型コロナウイルスの影響を考えると、市場がこの大統領選を予想するのは困難であり、11月の投票前に大きな変動が生じる可能性がある」と指摘。
また、投資家は世論調査の妥当性を疑問視している可能性もあると指摘。これは、米民主党が新型コロナ経済対策に伴い更なる財政赤字支出を余儀なくされる可能性があることから、法人増税などのあまり友好的ではないビジネス政策に焦点が当たるとの見方に基づいている。加えて、98年の大統領選では勝利したジョージ・ブッシュ氏は一時、支持率で民主党のデュカキス候補に17ポイントも下回っていた時期があったとの事例も引用している。
それでも、「今回の選挙には何一つ正常なことがない」とし、「トランプ大統領が勝利するにはまだまだ長い道のりがある」と結んだ。(QUICK Market Eyes 片平正二、大野弘貴)