外国為替市場で円相場が対ドルで上昇基調を強めている。7月28日には一時1ドル=104円96銭と3月中旬以来の水準まで上昇した。ドル安基調が続く中で、市場参加者はドル売りと組み合わせる通貨をユーロなどから円にシフトし始めている。ドル売りには過熱感が出ているものの、一段の円の上昇を指摘する声が増えている。
■円に買いが波及
最近はドル売りの材料に事欠かない。米中対立の深刻化や新型コロナウイルスの感染拡大に伴う米経済の先行き懸念がドル売りにつながっている。米連邦準備理事会(FRB)による緩和的な金融政策の影響で米国の実質金利が低下し、「基軸通貨としての米ドルの寿命に懸念が生じ始めた」(ゴールドマン・サックス)との見方さえ出て、市場参加者のドル離れに拍車をかけている。
欧州連合(EU)が新型コロナの復興基金創設で合意し、欧州各国が財政支出に前向きになったことをきっかけにユーロ買い・ドル売りが優勢だったものの、足元では円にも買いが波及し始めている。米商品先物取引委員会(CFTC)によると21日時点で投機筋の建玉は円の買い越し。野村証券の高田将成氏は「CTA(商品投資顧問)は幅広い通貨に対して米ドル売りを拡大させており、対円でも機械的に米ドル売り・円買いの圧力が加わりやすい」と指摘する。
TD証券のマゼン・イッサ氏は「これまで対米ドルでの上昇が遅れていた通貨に対して、米ドルの下落余地はより大きい」と指摘する。そのひとつが円だ。ユーロが対米ドルで前日までに7営業日続伸していたのに対し円の上昇はまだ限られており、「ユーロなどに資金を向けていた市場参加者が利益を確定させて円に資金を向け始めた」(バノックバーン・グローバル・フォレックスのマーク・チャンドラー氏)という。
■「1ドル=100円を目指してもおかしくない」
新型コロナ対策を巡って、米議会共和党は27日に1兆ドルの追加の経済対策を公表したが、民主党案との差は大きく、合意までには時間がかかるとの見方が大勢を占める。共和党案は失業手当の上乗せ分の削減が盛り込まれており「米景気や失業した米国人が必要としている支援には大きく不足している」(BKアセット・マネジメント)。米景気の回復が遅れるとの懸念につながり、ドル買いはますます入りにくくなっている。
今週は米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果発表や主要IT(情報技術)企業の決算発表が控える。「市場の期待に届かない決算内容などがドル売り・円買いのきっかけになりうる」との警戒感は根強い。「1ドル=105円を下回る水準が続けば仕掛け的なドル売りが強まり、円は対ドルで1ドル=100円を目指してもおかしくない」(バノックバーンのチャンドラー氏)との見方も浮上する。コロナ禍の4月以降、値動きが乏しく売買が低調だった円・ドル相場は、局面が変わるタイミングを迎えている。(NQNニューヨーク=岩本貴子)