新型コロナウイルス(COVID-19)の感染第2波が世界中で警戒される中、米中関係の悪化リスクが再び高まりつつある。トランプ政権が外国企業の米国投資を審査する「対米外国投資委員会(CFIUS)」を使って、動画アプリ「TikTok(ティックトック)」の米事業を切り離す考えを示唆している。個人情報の収集が「安全保障上の問題がある」と判断すれば米国事業の切り離しを大統領に勧告できるといい、WSJ紙電子版は8月2日、「マイクロソフトは運営会社の北京字節跳動科技(バイトダンス)とのティックトック買収交渉を保留にした」と報じた。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、今回の買収協議は終わった訳ではないというが、政権内で意見に相違があるため先行きに不透明感があるようだ。
■中国側の報復を警戒
報道に先立ち、米証券会社レイモンド・ジェームズは7月31日付のリポートで「米国のティックトック事業の過半数の株式は、トランプ政権のCFIUS審査で求められたいくつかの選択肢の下で、米国の投資家に譲渡されるか、米国企業によって取得される可能性がある」としながら、「売却の別の代替案としては、データに関するCFIUSの下での緩和協定が考えられる」と指摘した。その上で。米国と中国の商業的関係に圧力をかけるためのトランプ政権の取り組みは、正式な投資撤退命令や緩和命令によってさらにエスカレートし、「その結果、中国が米企業に報復的な規制を課したり、中国で操業する米企業の規制見直しを強化したりするのではないかと市場で懸念が高まることが予想される」と指摘。中国側の報復を警戒する展開に警鐘を鳴らした。
■それほど悪化はしない
一方、国際情勢に詳しいユーラシア・グループは31日付のリポートで「中国政府はこのような動きを、中国のテクノロジー企業に対する別の敵対行為と見なすだろうが、アプリを全面的に禁止したり、企業をエンティティリスト(EL)に載せるほど厳しくはない」と指摘。また、政権と議会のタカ派もテンセントが運営するソーシャルメディアアプリ『ウィーチャット』に狙いを定めているが、どんな措置が取られるかは不透明だ」とし、事態がそれほど悪化することはないのではないかと冷静にみていた。
■コロナ追加対策法案
今週の相場の変動要因として、米議会での追加のコロナ対策法案の進捗も気になるところ。7月31日、2500万人に週150億ドルを支給する新型コロナウイルス対策の特例措置が終了した。週末もムニューシン米財務長官やペロシ下院議長らの協議に大きな進展はみられなかった。
ノムラ・セキュリティーズは31日付のリポートで「予想よりも少し時間がかかるが、当局は今後1~2週間のうちに総額約1.5兆~2兆ドルの規模で最終合意を目指している」と指摘した。31日の失業給付の期限切れを受けて緊迫感が高まっていることと、「上院共和党の穏健派がより広範な合意を支持し始めている兆候がある点は、今週中に何らかの進展がある可能性を示唆している」とポジティブな部分もあると指摘した。一方で「共和党のコリンズ上院議員とロムニー上院議員が反対票を投じると明言したことから、トランプ大統領によるジュディ・シェルトン氏の米連邦準備理事会(FRB)理事指名はますます不透明になっている」とし、FRB理事メンバーの選定が遅れる可能性を指摘した。(QUICK Market Eyes 片平正二)
<金融用語>
タカ派とは
もとは政治用語で、平和的に問題を解決しようとする穏健派、慎重派のハト(鳩)派に対し、強硬手段も辞さない、強気な見方や発言をする人、集団のこと。鷹の持つ力強く積極的なイメージから、こう呼ばれるようになった。金融政策については物価の安定を重視し、金融引き締めに前向きな利上げ賛成派となる。