中国ネットサービスの騰訊控股(テンセント、@700/HK)がM&A(合併・買収)攻勢をかけている。7月に中国検索サービス大手、捜狗(ソーゴウ)の完全買収提案が明らかになり、8月には出資する中国のゲーム動画配信大手2社を合併させると伝わった。積極投資で出資先の企業価値向上とグループ業績の拡大に弾みを付ける狙いだ。
■「相乗効果が見込めるだろう」
ソーゴウは7月24日、テンセントから完全買収の提案を受けたと発表した。ソーゴウは米市場に上場しており、買収額は21億米ドル規模になる見通し。テンセントは世界で12億人の利用者を抱える対話アプリ「微信(ウィーチャット)」の検索機能を強化し、広告収入の拡大につなげたい考え。野村国際(香港)の史家龍アナリストは、買収に成功すれば「テンセントは検索市場での地位を高められる」と評価する。
中国の若者の間ではテンセントのライバル、北京字節跳動科技(バイトダンス)のショート動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の中国版が大人気。中国の調査会社クエストモバイルによると、競合の台頭でアプリ利用時間に占めるテンセントのシェアは縮小し、6月時点で39.5%と前年同月と比べ4.3ポイント低下した。それだけにソーゴウを傘下に収めれば「検索とスマートデバイスの分野でより多くの相乗効果が見込めるだろう」と、米ジェフリーズは指摘する。
■出資先同士の競合をなくす
主力のゲーム分野でも攻勢を加速する。中国メディアによると、テンセントはゲーム動画配信で中国トップのHUYA(虎牙)と、2位の「闘魚(ドウユウ)」を運営する武漢闘魚網絡科技を合併させる。テンセントはすでに両社に出資しており、合併後は存続会社の筆頭株主になる見通し。中国の動画配信市場のシェアは8割程度に拡大し、企業価値は100億米ドル規模に達するとされる。
テンセントはこれまでも出資や買収を通じ、ゲーム開発からeスポーツ大会運営、動画配信まで自社の経済圏のなかに取り込んできた。ただ今回の合併はテンセント主導で出資先同士の競合をなくし、企業価値を高めるという点で、従来とはやや色合いが異なる。
■米中対立の懸念
一方で米中対立への懸念がテンセントへの逆風となっている。トランプ米大統領は8月6日、安全保障上の脅威になるとしてウィーチャットに関わる取引を45日後に禁じる大統領令に署名。テンセント株は7日、10日と連日大幅安となり、2営業日で下落率は9%を超えた。
テンセントは12日に20年4~6月期決算を発表する。QUICKファクトセットがまとめた市場予想は、11日時点で売上高が前年同期比27%増の1129億元、純利益が10%増の270億元。好決算期待で株価は11日に切り返し、一時4.8%高となった。米中対立の火の粉が散るなか、主力のゲーム事業が好調なうちにM&Aの効果をどう収益に反映させていくか、市場は注目している。(NQN香港 川上宗馬)
<金融用語>
M&Aとは
Merger and Acquisitionの略称で企業の合併・買収のこと。 企業全体の合併・買収だけでなく、株式譲渡・新株引受・株式交換、事業譲渡、合併、会社分割などの様々な手法があり、特定の事業の譲渡やゆるやかな資本業務提携などを含めた広い意味での企業提携の総称として使われることもある。