投資信託を販売する金融機関の共通KPI(成果指標、2020年3月末時点)がほぼ出そろった。運用損益がプラスの顧客割合が多い順に業態別と種類別でランキングにまとめた。対象はQUICK資産運用研究所が8月初旬までに調べた193社。
■運用損益がプラスの顧客割合、過去3年で最低に
3回目の公表となった20年3月末分はコロナショックとタイミングが重なり、運用損益がプラスの顧客割合は軒並み減少した。運用損益の区分別に内訳を開示した184社の単純平均を集計したところ、同時点で評価益を確保できた顧客が28.9%。集計対象は異なるが、金融庁がまとめた18年3月末時点の54.5%、19年3月末時点の66.2%を下回り、過去3年で最も少なかった。
共通KPIは金融庁が投信の販売会社に対し、自主的な公表を求めた3つの成果指標のこと。運用損益別の顧客割合のほかに、預かり残高上位20銘柄のコスト・リターンの分布とリスク・リターンの分布(いずれも過去5年の年率換算)がある。販売会社が顧客本位で取り組んでいるかどうかを「見える化」するのが狙いで、個人投資家がこの指標を参考に金融機関を選び、安心して資産形成に取り組める環境づくりを目指して導入された。
■顧客の損益、これまで以上に意識も
「顧客の何割が投信でもうけを出したか」という数字は、単純で分かりやすい面がある。しかし、この指標だけで販売会社が顧客本位かどうかを判断できないとの批判は導入当初からくすぶっている。指標自体の振れが大きく、業態によって顧客の属性や投資手法、売買タイミングなどの特性が異なることもあって、3年目を迎えた今でも「横並び比較には適さない」との指摘が多い。
一方、今回は20年3月末のデータだけでなく、運用環境が回復傾向となった5月末や6月末時点を自主的に公表した販売会社がいくつもあった。共通KPI以外に独自の指標を補完的に開示したり、顧客本位の取り組みに関する情報を発信したりする工夫もみられる。顧客本位の徹底に向けた取り組みは道半ばだが、共通指標の開示を積み重ねることによって、販売会社はこれまで以上に顧客の損益を意識せざるを得なくなっているようだ。
(QUICK資産運用研究所=石井輝尚、西田玲子)