米国のアザー厚生長官が台湾を訪れ、蔡英文総統と会談した。米台の関係強化と中国の反発ばかりに目がいくが、長官の台湾訪問の目的は新型コロナウイルスの封じ込めに成功している台湾の防疫システムの視察だった。台湾市場では新型コロナが発生してから、「防疫」関連の銘柄が健闘している。ハイテクに代表される台湾の技術力の高さは保健用品を手がける中小企業も例外ではない。小粒だがキラリと光る企業が目立つ。
■台湾の防疫関連株
アザー長官が8月12日、医療用マスク製造装置を生産する長宏機械の新北市の工場を視察し、同社の製品は米国に輸出されることになった。中央通訊社(電子版)などの報道によると、長官はマスクのサプライチェーン(供給網)に貢献するとの期待を示したという。台湾の13日時点の累計感染者数は480人、死者数は7人にとどまる。アザー長官は「台湾の新型コロナ対策は世界で最も成功した例の1つ」と称賛した。
長宏機械は上場していないが、台湾市場には防疫関連株がたくさんある。化学や電子部品関連の材料を生産する長興材料工業(エターナル・マテリアルズ)は8月初旬、連日で急伸する場面があった。台湾当局から、新型コロナウイルスの抗原簡易検査向けスティック剤の技術生産権を取得したことが手がかりとなった。
マスクメーカーの恒大(ユニバーサル)も堅調だ。7月の売上高は前年同月の6.3倍に急増し、株価も6月に上場来高値を付けた。老舗繊維の遠東新世紀もマスク向け材料を手がける。台湾はワクチン開発などの最先端の研究は世界に比べると遅れがちだが、マスクをはじめとする保健用品を手がける企業は大活躍だ。
■日用品の水準の高さ
台湾市場は売買代金の7割を台湾積体電路製造(TSMC、@2330/TW)をはじめとするハイテク株が占めるため、中小型の防疫銘柄が相場全体に影響することはない。市場では「業績が不安定な企業も多く、長期の保有には不向き」(台湾の工商時報)との声もある。
だが、侮ってはいけない。天才デジタル大臣として注目される台湾の唐鳳(オードリー・タン)政務委員がコロナの初期に着手したのは、台湾全土のマスク在庫がリアルタイムでわかる地図アプリ開発の環境整備だった。在庫を知って安心するためには、マスクの品質や域内企業の生産能力を市民が信用していなければならない。大臣の辣腕は日用品の水準の高さが前提にある。
新型コロナの特効薬やワクチンの本格普及はなお遠いなか、マスクや検査薬といった日用品の需要は当面、衰えることはないだろう。中小型株の躍進に、台湾のコロナ抑制の成功の理由が垣間みえる。(NQN香港 桶本典子)