直近で発表された米国の経済指標を並べてみると、これまでの基調に変化の兆しが見えかくてし始めた。低金利を押下する形で絶好調だった米国の住宅市場だがローンの動きに一服感があり、ドル安・ゴールド高も流れが変わるかもしれない。
■金利上昇に反応、米住宅ローン申請が減少
米抵当銀行協会(MBA)が8月19日発表した週間の住宅ローン申請指数は824.5となり(青線)、1週間前から3.3%低下した(黄棒)。1990年3月16日を100とした同指数は、住宅ローンを利用する米国の個人向け住宅ローンの75%以上をカバーしている。MBAは「住宅ローン金利が2週間ぶりの水準に上昇したことで借り換えローンが低調となった」と述べた。
30年固定金利住宅ローンの平均利率は前週の3.06%から3.13%に上昇した(緑線)。現在の変動金利住宅ローンの割合は総申請件数の2.7%に過ぎず、住宅ローンの動向は長期金利の変動に敏感に反応する。米債市場では金利低下に一服感が出ている。金利水準が上昇した場合、住宅ローンひいては住宅市場に与える影響は気になるところだ。
■米実質金利は上昇、ドル買われ金は売られる
19日のニューヨーク債券市場で長期債相場は4営業日ぶりに小反落し、10年債利回りは前日比0.01%高い0.68%で取引を終えた。一方、米BEI(ブレーク・イーブン・インフレ率、債券市場が織り込む期待インフレ率)が0.02%低下したことで、実質金利(黄面)は上昇している。BEIはコロナ前の水準に上昇していた。
実質金利の上昇に合わせる形でドル指数は93.00と前日の92.27から上昇(緑線)、金価格は下落した(青線)。
■原油在庫は4週連続で減少、リグ稼働数は15年ぶりの低水準
米エネルギー情報局(EIA)が19日発表した石油在庫統計によると、原油在庫は前週から160万バレル減少した(黄棒)。在庫減少は4週連続。また、石油サービス会社ベーカー・ヒューズが14日発表した米国内石油リグ(掘削装置)稼働数は4基減り172基となった(緑線)。これは2005年7月以来およそ15年ぶりの水準だ。原油の生産調整は進んでおり、原油価格(青線)は底堅く推移している。
(QUICK Market Eyes 池谷信久)
<金融用語>
ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)とは
市場が推測する期待インフレ率を示す指標のこと。英語表記(Break Even Inflation rate)を略して「BEI」とも呼ばれる。物価連動国債の売買参加者が予測する今後最大10年間(物価連動国債の残存期間次第で10年未満になる場合がある)における年平均物価上昇率を示す。ここでの物価変動はコアCPIと呼ばれる「全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)」を基準とする。 物価連動国債の利回りを実質金利と呼び、実質金利と長期金利(長期固定利付国債利回り)の間には理論的に「期待インフレ率≒長期金利-実質金利」という関係が成立する。実質金利は物価連動国債の市場価格から計算できるので、同年限の長期金利と対比することにより、期待インフレ率を逆算推計することが可能となっている。 ただし、実質金利に対応する物価連動国債の市場価格は、期待インフレ率以外の要因として需給関係や流動性などのリスクプレミアムの影響を少なからず受けるとの考え方が通説となっている。