ゴールドマン・サックスは8月20日付のヘッジファンド・トレンド・モニターのリポートで、「ヘッジファンド(HF)は引き続きお気に入りの成長株にコミットしており、そのコミットメントは報われている」と指摘した。HFが好む銘柄群(VIPバスケット)は年初来で18%上昇し、ベンチマークのS&P500指数(6%上昇)をアウトパフォームしているという。
20年4~6月期(2Q)にVIPバスケットの上位5銘柄は過去8四半期連続で変わらなかったといい、中でもアマゾン・ドットコムは過去14四半期で1位・2位に位置し続けてHFに選好され続けたとのこと。
■5つの注目点
GSのヘッジファンド・トレンド・モニターは同社が米証券取引委員会(SEC)への届出書をもとに815のヘッジファンド(運用資産2兆ドル、うちロングは1兆4000億ドル、ショートは6790億ドル)を対象に四半期ごとにまとめている恒例のもの。主な5つの注目点は下記の通り。
①HFの人気銘柄の好調なパフォーマンスがHFのαとβの両方を生み出している。20年1~3月期(1Q)に新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を受けて相場が急落したが、HFはショートポジションをカバーし、2Qに高いネット・エクスポージャーを維持したことで相場が過去最高値圏にある中、βだけでなくαも増加した。
②SECが提案している13Fファイリングの開示基準強化(1億→35億ドルに引き上げ)に対して、これまで寄せられたパブリックコメント968件のうち961件が反対している。この規制強化が行われると、当社が分析対象としているHFは815→65本に減少する。規制強化となれば、HFの集中投資のリスクに対する明確さが欠如することになる。当社が分析している集中度指数(Crowding index)は過去最高に近い水準にある。
③2QにHFは成長株に向かって傾斜した。HFのロング・ポートフォリオはバリュー株から大きく傾斜しているが、これは当社が分析している過去18年間のデータの中で最大である。米大統領選挙まで3カ月を切った今、HFは一般的に最も政治的に敏感な業界へのエクスポージャーを減らしたが、これらの業界は良好な状態にある。
④HFがロングを好む銘柄群(VIPバスケット)は8四半期連続で上位は同じ4銘柄で構成された。今回の上位5銘柄はアマゾン、マイクロソフト、フェイスブック、中国の電子商取引(Eコマース)大手のアリババ・グループ、米検索大手グーグルの親会社であるアルファベットだった。今回VIPバスケットに、アドバンスト・マイクロ・デバイス、クアルコム、JPモルガン・チェース、クラウドストライクなど15銘柄を追加した。
⑤HFが多く持つセクターはヘルスケアで、ネットエクスポージャーの21%となっている。2Qにはヘルスケアと情報通信が減らされ、資本財と金融が増えた。金融セクターは依然として大きくアンダーウエイト状態にあり、HFとミューチャルファンドのポジションの傾きが異なる唯一のセクターとなっている。一般消費財(Consumer Discretionary)のオーバーウエイトは過去10年で最高となっている。
(QUICK Market Eyes 片平正二)
<金融用語>
α(アルファ)とは
β値で表されるリスクを調整した後の個別証券の収益率が、どれだけ市場平均(ベンチマーク)の収益率を上回っているのかを示す数値。α値が高いということは、ベンチマークよりも、それだけリターンが大きいことを意味する。 なお、ある変数y(被説明変数)のデータを他の変数x(説明変数)のデータから予測しy=α+βxの関係式に当てはめて検証する回帰分析を行う場合、最小2乗法の手法を用いて α=(yの平均値)-β×(xの平均値) と推計される。