外国為替市場でドル売り圧力が再び高まっている。ドルの総合的な価値を表すドル指数は8月20日に反落し、21日の東京市場ではドルがユーロや円に対して売られた。市場では投機勢の売り余地の大きさも指摘されている。「2020年後半はドル売り」――。そんな声が広がっている。
■CTAがドル売りを加速?
米バンク・オブ・アメリカの8月の「グローバル為替金利センチメント調査」によると、20年後半に選好するトレードとして最も多くの回答が集まったのは「ドル安」。回答者の割合も7月と比べて増えた。ドルに対する弱気心理は、調査開始以来で最高だった。
同社が背景の一つとして挙げたのが、準備通貨としての「脱ドル」の動きだ。調査では「今後1年で世界のドル準備高が減る」と答えた投資家が全体の5割近くにのぼった。中国の台頭や中央銀行の金保有量の拡大、地政学リスクの高まりなどで「ドルの覇権が揺らぐ」との見方がドル安を予想する一因になっている。
機械的に売買する商品投資顧問(CTA)も、ドル売りのタイミングを狙っているようだ。米ゴールドマン・サックスがCTAの動向を分析したところ、特にスポット価格が一定期間に高値や安値を更新したタイミングで動く「ブレイクアウト戦略」のCTAで、ドル売りに傾く可能性が高まっているという。
※米商品先物取引委員会(CFTC)がまとめる投機筋の建玉ではユーロ買い・ドル売りのポジションが膨らんでいる
■安倍首相の健康不安
一方、ここにきて広がってきたのが、日本の政治リスクだ。市場では安倍晋三首相の健康状態への関心が高まっている。国内勢は「ただの人間ドックで、騒ぐほどのことはない」(外資系運用会社のストラテジスト)と一笑に付すが、海外勢はそう見ていない。
米コンサルティング会社テネオの日本政治専門家で国会議員スタッフの経験もあるトバイアス・ハリス氏は、安倍首相が07年の辞意表明後に入院した経緯などを踏まえ「検査報道があるまで健康状態は重視されていなかったが、いまは違う。職務遂行能力を証明するには高いハードルがある」と指摘する。
ある欧州銀行は、首相の退陣で日銀が量的金融緩和策のブレーキを踏み、円高が進むというシナリオを描き始めた。
こうした状況を踏まえてか、CTAはドル売りをもくろむ一方、ひっそりと円買いを続けている。市場推計では、18日に円の買い持ち高を積み上げ、20日までその水準を維持しているようだ。105円ちょうど近辺に迫る場面で伸び悩みも目立つ円相場だが、CTAが撤退する気配はいまのところみえない。
ユーロ買いが一服しつつあるなか、新たに出てきた円買い材料。一段高への備えは、怠るべきではないだろう。〔日経QUICKニュース(NQN)松下隆介〕
<金融用語>
商品投資顧問(CTA)とは
Commodity Trading Advisorの頭文字をとったもので、直訳すると商品投資顧問業者にあたるが、一般的にはヘッジファンドなど、商品先物のみではなく、通貨、株価指数先物など広範な金融商品に分散投資して、顧客から預かった金融資産を運用する企業や運用者を指す。 代表的な運用手法のひとつとして、金融工学や統計学をベースに、コンピュータで先物をはじめとする様々な金融商品の値動きの流れ(トレンド)を解析し、分散投資することで相場の上げ下げにかかわず、上下どちらに振れても収益を狙うトレンド・フォロー(追随)型の運用手法であるマネージド・フューチャーズがある。