プロテニスの大阪なおみ選手を米国の主要メディアが大きく取り上げた。米ウィスコンシン州ケノーシャで起きた警察官による黒人男性ジェイコブ・ブレイクさん銃撃事件に抗議して準決勝の試合を棄権したことが大きな話題になった。グランドスラムで勝利したときより米メディアの扱いが大きい。棄権から4日たった30日も、CNNなどが引き続き報道している。
大阪選手は米国で最も知名度がある日本人の1人だが、米国で国籍はあまり重視されない。有力な若手アスリートとして評価が高い大阪選手の抗議が米国を動かしたのだ。米プロバスケット(NBA)とメジャーリーグが試合の一部をキャンセルするきっかけにもなった。黒人差別問題をめぐる米国民の関心の高さを象徴するニュースだった。
米大統領選まで約2カ月。主要2政党の全国党大会が終わり、選挙戦が本格化した。候補者を支援するプラカードを軒先に掲げる家庭や、ステッカーを貼ったクルマが目立つ。伝統的に民主党が強いカリフォルニア州ではバイデン大統領候補への応援しかみかけないが、もっと多いのは「BLM」のサインだ。Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事だ)のイニシャルをとったBLMと書かれた垂れ幕やプラカードをロサンゼルス市内の至るところでみかける。
5月末のミネソタ州でのジョージ・フロイドさんの暴行死をきっかけにはじまったBLM運動が全米に拡大。8月23日に6人の子供の父親であるブレイクさんが警察官に背後から撃たれたことも影響して抗議行動がさらに広がった。米西部オレゴン州ポートランドでは29日、黒人差別反対デモとトランプ支持者が衝突し、白人男性が撃たれて死亡した。
トランプ大統領は30日、ポートランドの事件に関し、民主党の責任を問うツイートを連発した。民主党の市長は「弱くて愚か者だ」と書き込んだ。「法と秩序」が必要だとして、州兵を再派遣する可能性を示唆した。ポートランドのウィーラー市長は記者会見で「憎悪を生み出しているのはあなただ」とトランプ氏を痛烈に批判した。
リアルクリア・ポリティックスの各社世論調査のまとめによると、バイデン氏が依然として優勢だ。30日時点の支持率はバイデン氏が49.7%、トランプ氏は42.8%と6.9ポイントの差だ。1カ月前は10ポイント超の差があったので、トランプ氏が巻き返していることが伺える。トランプ氏は新型コロナウイルスに関するブリーフィングをはじめメディア露出を増やしていることが影響している可能性がある。
BLMは経済および新型コロナ対策と並ぶ大統領選のテーマになった。株式相場が最高値水準で推移し、コロナのワクチンは選挙前に完成する可能性がある。こうした要因はトランプ氏に有利に働きそうだ。BLMへの対応はバイデン氏にとって非常に重要と言える。
NBCニュースによると、2008年の大統領選で黒人有権者の95%が民主党に投票した。当時の民主党候補はオバマ氏だ。前回2016年の選挙で民主党にまわった黒人票は80%だった。黒人のハリス上院議員を副大統領候補に指名したバイデン氏がどこまで黒人票を取り返せるか。バイデン氏はオンライン中心の選挙キャンペーンを見直し、勝敗を左右する激戦州での集会を本格化する。
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Market Editors 松島 新(まつしま あらた)福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て2011年からマーケット・エディターズの編集長として米国ロサンゼルスを拠点に情報を発信