ロシアがウクライナに侵攻して間もなく3年。ロシアとウクライナに親戚が分かれているため、結婚式も葬儀もオンライン形式になった。制裁にもかかわらず西側製品はロシアで流通しているが、幅広い品目の価格上昇が続く。2年間の米国での避難を終え、ウクライナに帰国した妻の従妹は「男がいなくなった」と思った。徴兵を逃れるため、男性が隠れていると言う。ロシア人とウクライナ人は「早く戦争が終わってほしい」と誰よりも願っている。
トランプ大統領とプーチン大統領は12日、1時間半に及ぶ電話会談で、ウクライナ戦争を終わらせる交渉の開始で合意した。英国の国際関係専門のフリードマン教授は、戦争で疲労し、傷ついていると指摘、「停戦を歓迎するウクライナ人は多いだろう」とフィナンシャル・タイムズ紙への寄稿文で述べた。トランプ氏はウクライナ問題をプーチン氏に差し戻したと主張した。ギャラップ社の昨年11月の調査は、ウクライナ人の52%が早期停戦を望んだ。侵攻直後の22%、23年の27%から急増した。
ロシアのトランプ氏への期待は大きい。1月20日の就任式はロシアのテレビで同時通訳付きで生中継された。異例のことで関心の高さが伺える。昨年11月の米大統領選以降、ロシアのメディアの米国をめぐる報道は急増。米ロ首脳の直接対話について、国営タス通信は「キーウの恐怖と戦慄」との見出し、コメルサント紙は「プーチンの勝利の日」と題し、世界の報道をまとめて伝えた。明らかにロシア寄りの視点で報じられている。ウクライナのキーウ・ポスト紙は、「(米国・ソ連・英国が超大国の利害を調整した)1945年のヤルタ会談の第2弾は望まない」と社説で主張した。
米ロ首脳会談は早期に実現する可能性がありそうだ。トランプ氏は16日、プーチン氏との会談は「非常に近い将来」に実現するだろうと記者団に語った。FOXニュースによると、米国の高官3人は17日にも交渉地のサウジアラビアに到着予定。プーチン氏の側近と首脳会談前の交渉を開始する。米ニュースメディアのアクシオスは、中東担当特使のウィットコフ氏が交渉の鍵を握ると報じた。ニューヨークの不動産王で、「ディール・メーカー」として知られるとしている。トランプ氏と長く深い親交があり、ロシアで拘束されていた米国人教師の釈放を実現させたと伝えた。ポリティコによると、ウクライナはサウジでの米ロ交渉に招かれていない。
ウクライナのゼレンスキー大統領は16日に放送されたNBCの報道番組「ミート・ザ・プレス」のインタビューで、「ウクライナ抜きの和平合意は受け入れない」と述べた。プーチン氏の元盟友の娘でインフルエンサーのソプチャク氏は、「交渉は100%順調に進まない。プーチン氏は譲歩しない。特に公の場では」とテレグラムに投稿した。「安全保障のダボス会議」と呼ばれる週末のミュンヘン安全保障会議は、ウクライナ問題で大揺れ。欧州抜きのウクライナ停戦交渉に危機感を高めたフランスのマクロン大統領は欧州の指導者を緊急招待した。
ロシア占領の領土とウクライナの安全保障および北大西洋条約機構(NATO)の役割をめぐる交渉の核心部分の行方が読めないなか、欧州株式市場はひとまず歓迎。停戦期待でドイツ株価指数(DAX)は最高値を更新。外国為替市場でユーロが買われ、ドルを押し下げた。ウクライナ国債は急騰し、利回りは3年ぶりの低水準。ロシアの株式市場は全面高。通貨ルーブルが急騰した。関税問題の警戒が上値を抑える米株式市場は、ウクライナ問題を静観しているようにみえる。商品相場のボラティリティーが今後高まる可能性があり、投資家は状況を注視している。
(このコラムは原則、毎週1回配信します)
福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。