「アメリカは大変ですね」。昨年11月後半に一時帰国した際、親戚や友人からトランプ氏復権の影響を心配された。米国では逆の反応だ。高い物価水準や規制強化に米国人は疲れていた。民主党のバイデン氏は「大きな政府」政策を推進。法人口座の当局への報告義務や金融機関のKYC(顧客の本人確認)は過剰といえるほど強化され、SEC(証券取引委員会)やFTC(連邦取引委員会)の大手企業に対する訴訟は急増した。「ブルーステート(民主党が優勢な州)」のカリフォルニアの学校は、子供の性自認の保護者への通知を禁止。共和党が掲げる「市場を重視、政府の介入を最小限にする小さな政府」スタンスへの転換を米国人は待望した。
CNNの最新の世論調査で、55%がトランプ氏の経済や移民をめぐる公約をポジティブに受け止め、1期目就任時の40%を大きく上回った。ニューヨーク・タイムズの調査では、トランプ氏個人よりトランプ氏の政策に期待していることが示された。犯罪歴のある不法移民の強制追放を87%が支持、多くの米国人がトランプ氏のインフレ対策に期待。民主党員の約3割もトランプ氏の経済政策を支持していることがわかった。CNBCは、バイデン氏は強い経済成長と雇用増を実現したが、家計の悪化で不人気の大統領だったと解説した。経済統計は堅調ながら、家計は火の車。ロサンゼルス市内のショッピング街は空き店舗が目立ち、レストランはかつての活気がない。
トランプ第2次政権に対するビジネス界の期待は非常に大きい。ゴールドマン・サックスのソロモン最高経営責任者(CEO)は、15日のイベントで、企業経営者の信頼感は非常に高いと指摘したとCNBCが報じた。シカゴ地区連銀の最新の経済活動指数は大幅に上向き、中小企業の景況感である全米自営業連盟(NFIB)の楽観度指数は2018年10月以来の高水準に上昇した。ブルームバーグ通信によると、バンク・オブ・アメリカのストラテジストは「米国株はトランプ氏によって下げから守られている」と考えている。ゴールドマン・サックスのストラテジストは、ドルが今後1年で約5%上昇すると予想した。
暗号資産(仮想通貨)業界は沸いている。暗号資産推進派がSEC次期委員長やホワイトハウス高官に指名された。仮想通貨の戦略備蓄構想もある。トランプ一族の関連会社は17日にミームコイン「$トランプ」を発行。フォーブスは、買いが殺到し、時価総額は133億ドル(約2兆750億円)に膨れたと伝えた。利益誘導・利益相反との批判はあるが、トランプ政権が仮想通貨を強く支援すると幅広く予想されている。
トランプ氏の投稿で復旧した動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」で、「YMCA」の曲で踊るトランプ氏を編集した、もしくは真似た「トランプ・ダンス」が沸騰した。ひとまず歓迎ムードだが、注目は就任後最初の100日でトランプ氏の公約がどう進むか。規制緩和、通商政策、不法移民対策、エネルギー政策。盟友イーロン・マスク氏が主導する官僚機構のリストラの行方も。ウォール・ストリート・ジャーナルは、米国史上最大の規制緩和に着手すると報じた。米国人の期待を裏切らないか。金融市場は当面、トランプ氏と側近の行動と発言に敏感に反応しそうだ。ボラティリティーが高まるとの予想は少なくない。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。