ドルの総合的な強さを示すインターコンチネンタル取引所(ICE)算出のドル指数は9月3日、一時93ちょうど付近と8月31日に付けた安値(92台前半)から1%上昇した。欧州中央銀行(ECB)幹部がユーロ高に懸念を示し、それをきっかけにユーロの利益確定売りが優勢となったのがドルの買い戻しにつながった。来週のECB理事会などを控えて、短期的にはユーロは上値が重い展開になりそうだ。
■ECB幹部のけん制
1日に心理的な節目の1ユーロ=1.20ドルを上回り、2018年5月以来の高値を付けた後、ユーロは売り優勢に転じた。米商品先物取引委員会(CFTC)が前週末に公表した建玉報告によると、8月25日時点の大口投機筋の対ドルのユーロ買越高は過去最大となった。ユーロはきっかけ次第で売りが出やすい状況を迎えていた。
今週、売りを促したきっかけは、ユーロの急上昇に対するECB幹部のけん制だ。ECBのレーン専務理事はユーロ高について「(金融政策に)関わる問題だ」と述べたと1日伝わった。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は3日、「ECB理事会の複数のメンバーはユーロ高がユーロ圏の経済回復を妨げるリスクを懸念している」と報じ、ユーロは海外市場で一時1.17ドル台後半まで下落した。
前週に米連邦準備理事会(FRB)がゼロ金利政策を長期化させる新指針を発表してドルの先安観が強まったところで、3日には英イングランド銀行(中央銀行)のラムスデン副総裁が量的緩和の拡大を示唆した。これがまずポンド売り・ドル買いを促した。市場では「海外中銀から自国通貨高のけん制が広がる」と受け止められ始めた。
10日にECB理事会や総裁会見を控え、スコシア・キャピタルのショーン・オズボーン氏は「短期的にはユーロは最大1.15ドル台まで下落する余地がある」とみる。今週発表された8月のユーロ圏消費者物価指数は約4年ぶりのマイナスとなり、ECB理事会への注目度は一段と高まっている。
■「潮目が変わったとみるのは早い」
ただ、長期的にはドル安傾向を想定する市場関係者が多い。目先は調整してもユーロの下値は堅いとの見方が大勢だ。CIBCキャピタル・マーケッツのバイパン・ライ氏は「雇用を中心に米景気回復の相対的な遅れがドル売りにつながり、1ユーロ=1.20ドル台を上回る水準に向かう」と予想する。欧州連合(EU)の7500億ユーロ規模の復興基金創設の合意など、ユーロ圏は相対的なコロナ対策の評価が根強いようだ。
ジェフリーズのブラッド・ベクテル氏は「急速にユーロ高・ドル安が進んだ反動で目先はユーロが弱含みやすいが、潮目が変わったとみるのは早い」と話す。3日の米株式相場が大幅安となっても外国為替市場は冷静さを保ち、比較的小動きにとどまった。4日発表の8月の米雇用統計を筆頭に米景気の回復度合いや、15~16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBによる次の一手を見極めたい雰囲気が強い。ドルの買い持ち高を積み増す動きは限られそうだ。(NQNニューヨーク 戸部実華)
<金融用語>
ECBとは
European Central Bankの略称で和訳は欧州中央銀行。欧州通貨機構が前身。 1998年6月1日よりフランクフルトで業務を開始。欧州の統一的な金融政策を実施している(物価指数、マネーサプライ等を指標として使用)。