9月8日、安倍晋三首相の後継を選出する自民党総裁選が告示された。立候補を表明しているのは菅官房長官、岸田政務調査会長、石破元幹事長の3名だ。QUICKが市場関係者を対象に行った調査では、「次の首相に誰が望ましいですか」との設問に対し、68%の回答者が菅官房長官を挙げた。
■アベノミクスの継続
日本経済新聞の電子版が5日付で配信した単独インタビュー記事では、菅官房長官が日銀総裁である「黒田氏を任命するときから、日銀の関連政策には最初から関わっている。アベノミクスを継承したい。黒田氏の手腕を大変、評価している」と発言した。
菅氏が後継首相に選ばれることで、アベノミクスの継続と大規模金融緩和路線が維持される公算が高い。
■経済政策再考の絶好の機会
JPモルガン証券の鵜飼博史チーフエコノミストは7日付リポートで、デフレからの脱却を至上命題として掲げ、これを実現・発展するために打ち出された「三本の矢」((1)大胆な金融緩和、(2)機動的な財政政策、(3)民間投資を喚起する成長戦略)について、「実質国内総生産(GDP)成長率は新型コロナの到来前に既に減速が鮮明であった。CPI(消費者物価指数)はエネルギーを除いても15年後半に1.2%まで上昇したのがピークで、その後はむしろ減速してきた」と指摘。「アベノミクスが掲げた目標で、達成できたと評価できるのは、完全雇用の達成とデフレからの脱出であり、その点では意義はあったと考えられる」との見方を示した。
また、第3の矢との関係が深い構造改革への取り組みの達成度については、「重要なのは日本が人口高齢化・減少に直面する下で、如何に経済の生産性を上昇させると共に、労働力を確保したかである」と指摘したものの、「残念ながら、この観点からみると、潜在成長率の向上はもたらされなかった」と結論づけた。現状、日本のビジネス環境はOECD(経済協力開発機構)内で現在は18位とアベノミクス前よりも世界で順位を下げている点も指摘された。
それでも、次期政権に対しては「これまでのアベノミクスを総括するタイミングに来ていたうえ、ポスト・コロナを展望しなければならない時期にもあたるため、経済政策を再考する絶好の機会にある」と前向きな見方も示した。
■海外投資家は期待薄
第2次安倍内閣がスタートした2012年12月26日から退任を表明した20年8月28日まで、日経平均株価は2.27倍、1万2802円上昇した。アベノミクスの功績として株価の上昇が取り上げられるが、この間のドル建て日経平均とダウ工業株30種平均を比較するとドル建て日経平均がダウ平均を明確にアウトパフォームしていたのはごくわずかの期間しかなかった。
「海外投資家が日本の次期政権を期待して株式を積極的に買いに行く動きは現状、見られておりません。実際、日本株ETFで純資産が最大の“iシェアーズMSCIジャパン”には安倍首相就任時はそれなりの資金流入が見られておりましたが、直近では資金流入が全く見られていません」(外資系証券)
また、次期首相は自民党総裁任期である21年9月に交代するリスクも残る。首相の後退による新陳代謝で日本株全体が買われるというより、政策期待でピンポイントに恩恵を受ける個別銘柄の上昇に期待すると言った半身の姿勢が望ましいかもしれない。(QUICK Market Eyes 大野弘貴)
<金融用語>
OECDとは
世界中の経済、社会福祉の向上を促進するための活動を行う国際機関で日本での表記は「経済協力開発機構」。その前身は、第二次世界大戦後の欧州復興支援策(マーシャル・プラン)を推進するための機関として1948年にパリで設立されたOEEC(欧州経済協力機構)。その後、欧州復興に伴うOEECの解組を経て1961年にOECDが設立。欧州を中心に日米など先進34カ国が加盟しており、加盟国間の情報交換を通じて、各国の経済成長、貿易自由化の拡大、途上国の開発援助などを目的とする。 【正式名称】Organisation for Economic Co-operation and Development