【NQNニューヨーク 古江敦子】米連邦準備理事会(FRB)は9月16日まで開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)でゼロ金利政策を長期間、維持することを明示する新たな「フォワード・ガイダンス」を発表した。FRBのパウエル議長は会見で景気の不透明感を強調し、ハト派姿勢を維持した。だが米債券相場の反応は鈍く、FRBの長期的な緩和体制にはむしろ様子見ムードが強まった。
■「長期のハト派体制に移行」
フォワード・ガイダンスは「労働市場が雇用の最大化とみなせる水準に達し、インフレ率が2%に上昇して一定期間は2%を緩やかに上回る軌道に乗るまでは、現在の政策金利(0~0.25%)を維持するのが適切」と明確にした。パウエル議長は会見で新たなガイダンスについて「強力かつ息の長い指針だ」と繰り返し、強い緩和効果を強調した。
四半期ごとに発表される経済見通しでは2021年と22年の成長率予想は下方修正された。パウエル議長は会見で「景気の回復ペースは緩やかで道のりは長い」と繰り返した。政策金利見通しでは23年末までゼロ金利政策が続く見込みで「FRBは長期のハト派体制に移行した」(アクション・エコノミクスのキム・ルパート氏)と受け止められた。
だが、債券市場では長期債の買いは限られ、むしろ売りがやや優勢となる展開となった。「追加緩和策として予想される資産購入の拡充に前向きではないと確認されたからだ」(ルパート氏)。パウエル議長は「現在の資産購入の規模は金融市場の機能維持や経済の支えとして適切」と述べるにとどまった。議長の発言を受け、米長期債利回りは0.68%から0.70%まで上昇した。
■「FRBは24年前半の利上げを示唆」
INGのパドレック・ガーベイ氏は「FRBは24年前半の利上げを示唆しており、想定よりゼロ金利政策が長引かないようだ」と指摘する。FRBの見通しでは23年10~12月期に失業率は4%まで低下し、インフレ率は2%に上昇し、利上げの条件に近づいているとみる。「2008年の金融危機後のゼロ金利政策は7年続いたが、今回は4年程度にとどまりそうだ」と指摘する。
市場では「新たなフォワード・ガイダンスは曖昧すぎる」(パンセオン・マクロエコノミクスのイアン・シェパードソン氏)との見方から、取引を見送った参加者もいたようだ。雇用の最大化、平均物価目標の具体的な条件について、パウエル氏は「労働参加率や賃金上昇などの指標を広く判断した上での最大化」「(2%を)緩やかに超えるのは大幅に超えるという意味ではない」「(2%超の)一定期間とは永久ではない」と歯切れが悪かった。
米10年物国債相場は16日に3日続落したが、利回りは0.69%と前日比0.01%上昇にとどまった。FRBの長期のハト派体制は確認されたものの市場参加者は緩和策の手法について見極めていく必要があるとみているようだ。
<金融用語>
フォワード・ガイダンスとは
中央銀行(金融政策当局)が将来の金融政策の方針を前もって表明すること。 金利がゼロ近辺まで下がり、伝統的な金融政策である政策金利のコントロールでは対処できないほどの金融危機や景気後退に直面した際などに、中央銀行が行う非伝統的金融政策のひとつ。 声明等を通じて政策金利の据え置き期間や政策変更の条件などを明言し、市場参加者の予想や期待に働きかけることで、金融政策効果の浸透を目指す。 1990年代にゼロ金利政策の下、日本銀行が行った「時間軸政策」が先駆けとなり、米連邦準備理事会(FRB)や英イングランド銀行など、各国の中央銀行で採用されている。