【日経QUICKニュース(NQN)聞き手は末藤加恵】米連邦準備理事会(FRB)が米連邦公開市場委員会(FOMC)後にゼロ金利政策の長期化を示す声明を発表し、外国為替市場では円買い・ドル売りが先行した。円は9月16日の海外市場で1ドル=104円80銭近辺に上昇し7月31日以来、1カ月半ぶりの高値を付けた。105円という節目を上回った円の上値余地や米国の長期金利の先行きはどうなるか。専門家に見通しを聞いた。
■「月内は円高見込みづらい」「日米金利差は縮小へ」
◎三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジスト
<円の上値メド>
1ドル=104~107円(月内)、102円50銭~111円(年内)
円は今年に入って104円台に上昇すると、何度も跳ね返されてきた。この水準では国内輸入企業や年金基金、個人投資家の円売り・ドル買いが出やすく、月内はここから大きな円高は見込みづらい。
米大統領選で民主党候補のバイデン前副大統領が勝利した場合、トランプ米大統領が大統領令を乱発するなどして、米国の政治状況が混乱しかねない。このため、初動では円が急伸するなど一時的に荒れそうだ。ただ、新型コロナウイルスのワクチン開発が進み、米国などの景気が明るくなれば、円安・ドル高に振れやすい。
<米長期金利の見通し>
0.5~0.9%程度
FRBはマイナス金利の導入に消極的で、米長期金利の低下余地は小さい。一方、ゼロ金利政策の長期化で大きく上昇する可能性も低い。日銀は現在の金融緩和策を継続しそうで、日米金利差は縮小傾向が続く。日本に関しては、菅義偉首相が携帯電話料金の引き下げに意欲を示しており、デフレに逆戻りする懸念がある。
■「欧米の政治リスクが波乱要因」「米金利はスティープ化」
◎あおぞら銀行の諸我晃チーフ・マーケット・ストラテジスト
<円の上値メド>
1ドル=104~107円(月内)、102~108円(年内)
日米の金融政策決定会合は予想通りの結果だった。FRBの強い緩和姿勢が確認できた半面、日銀の緩和余地が乏しいことも改めて浮き彫りとなった。ドル安のトレンドは続くとみている。
年内は欧米の政治リスクが波乱要因となりそうだ。米大統領選でバイデン氏が接戦で勝利した場合、トランプ氏が法廷闘争に持ち込みそうだ。結果が確定するまで1カ月ほどかかった2000年のように混乱が長引く可能性がある。現時点で優勢なバイデン氏の掲げる政策がマーケットに受け入れられにくいのも気がかりだ。米中対立の激化、英国の欧州連合(EU)離脱に伴う自由貿易協定(FTA)の交渉決裂などにも注意が必要だ。株価が急落して円高・ドル安が加速する可能性がある。
<米長期金利の見通し>
0.5~0.8%程度
中短期の金利は低下圧力がかかるものの、将来的な米国の物価上昇が意識されて10年以上の金利は上昇圧力が高い。利回り曲線は、長い期間の債券ほどより高まる「スティープ化」が進むだろう。
■「投機筋は円買い仕掛けにくい」「年内110円まで下落も」
◎外為どっとコム総合研究所の神田卓也・調査部長
<円の上値メド>
1ドル=104~106円50銭(月内)、104~110円(年内)
月内の円の上値余地は小さい。104円台はチャート上でみても上値抵抗水準となる。菅首相は前首相の経済政策「アベノミクス」の継承を打ち出しており、この水準では金融当局から円高けん制が出やすい。海外の投機筋は円買いを仕掛けづらいだろう。
年末にかけては110円近辺まで下落すると予想する。米大統領選ではどちらが勝っても、波乱は想定していない。バイデン氏が勝利しても、最終的には新大統領の経済政策に期待して株価が上昇し、為替は円安・ドル高に傾くだろう。
<米長期金利の見通し>
0.5~0.75%程度
米長期金利の低下余地はほとんど残されていない。16日のニューヨーク市場では、米国の将来的な物価上昇を意識し米長期金利は上昇した。米国のゼロ金利政策が長引くなか、日米金利差が小幅となる状況が続くだろう。
<金融用語>
ゼロ金利政策とは
ゼロ金利とは、コール市場の金利が政策的にゼロ(またはそれに近い低金利)にされていることをさす。 1999年3月に日銀は、「短期金融市場の無担保コール翌日物金利」を史上最低の0.15%に下げた。この時の日銀の速水総裁は「翌日物金利はゼロでもよい」と発言したため、「ゼロ金利政策」と呼ばれた。金融システムの不安や、長期金利の上昇によるデフレスパイラル(景気後退と物価下落の悪循環)を防ぐことが狙いで実施された。