価格が低迷していた天然ゴム価格が春先以降急騰し、東証取天然ゴム価格は一時、同じ時期の過去5年レンジを上回る219.6円まで上昇した。この価格上昇はいくつかのファンダメンタルズ要因に投機的な動きが重なったものと考えられ、価格にはやはり下押し圧力が掛かる、というのがメインシナリオとなる。
■天然ゴム価格の上昇
今回のコロナウイルスの影響で世界的に景気が減速、景気循環系商品が積極的に売られた。天然ゴムは農産品であるが、主要用途が自動車のタイヤ向けであるため景気の影響を受けやすい。特に今回のコロナウイルスは世界の輸送需要を低下させたため自動車セクターが受けた影響が大きく、ゴム需要も強く影響を受けることになった。ただ、天然ゴムの供給は東南アジア地区のプランテーション開発によって供給過剰の状態にあったため下落前の価格の発射台が低く、他商品と比較して下げ幅は限定されたという印象である。しかし、8月の価格上昇はまたコロナウイルスの影響によるもので、世界的に医療用のゴム手袋需要が増加したことによる。世界1位の生産国マレーシアはゴム手袋市場の6割を占めており、これにタイが続く。マレーシアの2020年1-7月期のゴム手袋輸出は前年同期比+30.5%の増加となっており、6月は前年比+81.3%の増加となっていた。マレーシアの天然ゴム輸出の水準も低下しているが、タイの天然ゴム輸出も低迷した状態が続いており、需給両面で価格が押し上げられたと考えられる。また、これに加えて石油から製造する合成ゴムの需要も増加しており、原油価格の上昇も合成ゴム価格を押し上げ天然ゴム価格の上昇に拍車をかけたと考えられる。
■下押し圧力の予想
今後、ゴム手袋の需要が増えるかどうかはコロナウイルスの感染拡大状況によるため何とも言えないが、ワクチン・治療薬が開発されれば段階を追って需要は減少していくことになるのは確実であり、価格には下押し圧力が掛かることが予想される。また、上述の通り価格の押し上げ要因の1つであった原油価格も、欧州不安の高まりを背景とするドル高進行や需要回復ペースの減速、OPEC諸国の減産未遵守などを材料に調整色を強めており、天然ゴム価格の下押し要因となるだろう。また主要用途の自動車販売の回復ペースが中国を除けば市場の期待ほど早くないことも価格を下押しすると予想する。
ただ、今回のコロナウイルスの感染拡大によってそれほど衛生観念が高くなかった国も(欧米も日本に比べれば衛生観念が低い)、新型ウイルスへの感染予防の意識が高まったことは確実であり、需要が減少したとしても今後も構造的な一定の需要増加が見込まれる。さらに供給面はあまり問題になっていなかったが、気象庁の発表によればラニーニャ現象が発生したようだ。ラニーニャ現象が発生すると、通常、東南アジアの増産期である年後半から春先にかけて多雨となる。この数年の多雨は収穫作業の妨げになるだけではなく、大規模な地滑りや洪水を引き起こし、たびたび価格の押し上げ要因となってきた。このことを考えると、感染予防向けの特殊需要に、気象状況の悪化による供給懸念が年後半から春先にかけて顕在化する可能性がある。このリスクは無視できないものと予想される。