【日経QUICKニュース(NQN) 片岡奈美】内閣府が7日に発表した8月の景気動向指数による基調判断は15カ月ぶりに上方修正され、「下げ止まり」となった。前月まで12カ月続き過去最長となった「悪化」からようやく抜け出した。背景にあるのは、新型コロナウイルス感染症の影響で落ち込んだ経済活動の再開や、海外経済の持ち直しによる生産回復などとみられる。民間エコノミストの間では、緊急事態宣言解除後の5月に景気は底を打ったとの見方が多い。今回の上方修正はその明るい兆しの一端ともいえるが、コロナ前の水準に回復するにはなお時間がかかる見通しで、先行きへの不透明感は拭えない。
■景気の底は5月
基調判断は、景気の現状を示す一致指数(CI)から機械的に算出する。鉱工業生産指数や輸出数量指数などの押し上げが寄与し、CI一致指数は3カ月連続で上昇した。自動車を中心に生産活動が持ち直していることなどが背景にある。
新型コロナ後の景気の底は今年の5月――。同日発表の民間エコノミストの経済見通し「ESPフォーキャスト調査」によれば、34人の回答者の9割強にあたる31人が、5月に景気の谷を付けたと回答した。新型コロナによる3~5月の景気の落ち込みは極めて大きかったが、足元では景気の回復局面入りした可能性が高いとみるエコノミストは多い。
もっとも、景気の方向性をみる景気拡張や景気後退といった話と、水準の話はまったくの別物であることには注意が必要だ。実際、CI一致指数は3月から5月にかけて大きく落ち込んだが、その後の6~8月の3カ月間では半分も戻していない。
■「戻りのスピードは速い」
第一生命経済研究所の新家義貴主席エコノミストは「肌感覚として新型コロナ前の水準に回復するのは相当の時間がかかる。3~4年後といった見方もある」と指摘する。一方で、今後わずかずつでもCI一致指数の上昇が続けば「基調判断は12月に『上方への局面変化』、さらに21年1月には『改善』にまで基調判断は上方修正していく可能性が高い」(新家氏)という。
市場では「新型コロナの影響が最も出ていた春先に想定していたよりは、戻りのスピードが速い」といった声もある。ただ、景気の方向感が示す「明るさ」とは裏腹に、新型コロナの感染再拡大への警戒感や、投資抑制への懸念、企業収益の悪化による雇用や賃金への影響など不透明感はくすぶる。どん底を抜け出したとしても、先行きを見通すのはなお難しい状況が続きそうだ。