ボストン コンサルティング グループ(BCG)と HSBCの専門家チームは、自由な世界貿易を阻害している保護主義によって、2025年には世界のGDP(国内総生産)を最大10兆ドル(約1050兆円)下押しするとのリポートをまとめた。高い関税と貿易規制は新型コロナウイルスによる危機からの回復を遅らせると指摘している。
「開放的な貿易の価値は10兆ドル」というタイトルのリポートを9月17日に20カ国・地域首脳会議(G20)の参加国に提出した。現在の世界の商品貿易を阻害している関税や非関税障壁を各国の政府が撤回か縮小しなければ、世界経済は2025年には最大10兆ドルを喪失する可能性がある。参加国のビジネスリーダーの集まりであるビジネス20(B20)向けに作成され、開放的な貿易と保護主義を、コストと恩恵の観点から定量的に比較している。
自由と規制、2シナリオ比較
調査チームは、貿易の流れが経済成長に与える影響を分析するモデルを使い、G20参加国間の貿易の流れについて2つのシナリオを想定し比較た。一つは最大限に開放された規則に準拠する貿易、もう一方はあり得る限りで最大の貿易規制が実施されるケースで、後者では関税率の上昇や米中間の貿易摩擦に起因する関税の継続、貿易振興のための新しい対策がほぼ実施されないことを前提としている。
各シナリオの世界経済への影響は、1年目はほぼ同じだが、次第に違いが現れてくる。保護主義シナリオでは世界貿易の金額は横ばいになり、GDPも横ばいで推移する。開放的貿易シナリオでは、貿易額は年率2.0~2.6%増加し、GDPは毎年1.8~2.3%成長する。調査では商品貿易だけを対象にしたが、サービス財の貿易を加味した場合、影響額は一段と大きくなる見込みだ。
BCGのマネージング・ディレクター&シニア・パートナーのスカンド・ラマチャンドラン氏は「世界経済は新型コロナの感染拡大への対応に追われているが、分析では開放的貿易が全ての国と世界全体に利益をもたらすことが明らかになった」と話す。「開放的貿易から生まれる追加的な経済成長が、世界全体の雇用につながる」との見方を示した。
既に1兆6000億ドルの影響
WTO(世界貿易機関)は、2009年から現在まで続いている輸入制限措置によってG20参加国の輸入全体の10.3%、金額換算で1兆6000億ドルの輸入が影響を受けていると予測している。
リポートでは、世界経済を拡大させるために指導者たちが今後5年、およびそれ以降に取り組むべき5つのステップを提示した。
- 国際機関の機能を強化し、企業が世界で直面する新たな課題をWTOなどが遅滞なく把握する。
- 貿易ルールを見直し、より優れて法的強制力の強いルールを整え、保護主義を後退させ、市場開放を支援し、世界的に公平な貿易環境を確保する。
- 電子商取引とデジタル貿易が促進される環境を確保するためにインフラや技術、世界全体で通用する法的枠組みとデジタル貿易規格を開発する。
- サービス財や無形財の輸出を振興するために、サービス貿易の規制を削減し知的財産に関わる規制への共通理解を促進する。個人データなどの国内保存を求める「データローカライゼーション」に共通基準を適用し、電子送信物への関税を廃止する。
- 貿易が社会に与える好影響を促進するため、貿易ルールと投資ルールを整備して革新的な取り組みや包括的成長を後押しし、環境への悪影響を最小化する技術を進歩させる。
HSBCでグローバルに貿易金融事業を統括するナタリー・ブライス氏は「B20の貿易・投資作業部会は大胆かつ積極的な政策提言をまとめ、そのなかで持続可能な経済成長を目指す明確な道筋を示唆している」と述べた。「コロナ禍後の経済回復において貿易が本来の役割を果たすことは極めて重要だ。開放的な貿易政策で世界経済を迅速に回復できれば、その価値は数兆ドルに相当する」とみている。