日本の個人投資家にユーロの先安観が強まっている。外国為替証拠金(FX)取引では、個人のユーロ売り・ドル買いの持ち高が約6年半ぶりの高水準となった。10月15~16日の欧州連合(EU)首脳会議で、英国とEUによる通商協議が進展するとの見方が少ないためだ。佳境を迎える英・EU交渉の行方は相場の流れに逆らう傾向が強い「ミセスワタナベ」の戦略に沿うシナリオとなるだろうか。
■逆張りの個人投資家はチャンス
QUICKが12日算出した前週末9日時点の店頭FX8社合計の建玉状況によると、「ユーロ・ドル」取引で総建玉に占めるユーロ売りの割合は82.4%だった。前の週末から6.8ポイント上昇し、2014年4月以来の高さだ。
EU首脳会議を前にユーロは対ドルで上昇基調を保っている。12日の東京外国為替市場では一時1ユーロ=1.1826ドル近辺に上昇。9月下旬の1.16ドル台前半を底に、主要通貨に対するドル安もあってじりじりと水準を切り上げている。英国とEUの交渉が進まないなかでの上昇とあって「逆張りの個人投資家はもってこいのチャンスだとして売りを出した」(マネーパートナーズの武市佳史氏)という。
■「ミニ合意」が買い材料に
焦点の英・EUの通商交渉は暗礁に乗り上げている。合意できなければ21年1月から関税が復活する「自由貿易協定(FTA)なし」の決断を下すと揺さぶりをかけるジョンソン英首相に対し、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)電子版は日本時間12日に「EU首脳が対英の通商合意で厳格な執行ルールを求める見通し」だと報じた。EU側は英政府の言葉を信用できないと警告するとしており、合意に向けた期待は一段と薄くなっている。
そこで浮上しているのが、玉虫色の折衷案だ。英紙タイムズは10日、EU側の交渉担当者の話として、15日までに英国とEUがFTA締結交渉で妥結しない場合でも「『ミニ合意』を目指して11月も協議を続ける方針だ」と報じた。
今回の交渉では経済に与える影響が大きく、緊急性の高いFTA締結が優先され、安全保障面など取り残されている課題は多い。みずほ銀行の唐鎌大輔氏は「EU加盟国との擦り合わせが不要な通商交渉だけでも先に締結するのではないか」と指摘する。そのうえで、ミニであっても合意に至った場合には、交渉が進展するとの期待が後押しされて「ユーロにとっては一時的な買い材料となる」とみる。
結論先送りでユーロが一時的に上昇したとしても「ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)が芳しくないなかでは積極的な買いは入りにい」(クレディ・アグリコル銀行の斎藤裕司氏)との声は多い。だが、いち早くユーロ売りに傾く個人投資家は短期的な評価損を抱えるリスクに用心した方がよさそうだ。〔日経QUICKニュース(NQN)西野瑞希〕
<金融用語>
ミセスワタナベとは
外国為替市場で、日本の小口の個人投資家のこと。日本の為替市場で、昼休み時間帯などに、個人投資家のFX取引が市場を動かす要因となったことがあり、日本の個人の代名詞として「ワタナベ」が英国で使われ始めたのがきっかけ。